テキストサイズ

龍と鳳

第12章 【思い出編】Memories

しょーちゃんはお山の神様にお仕えしている眷属(ケンゾク)だ。だからいろいろお仕事をしてる。
中でも一番大切なお役目は大地と空を繋ぐこと。
これは龍にしか出来ない。

朝夕必ずやるんだけど、お社から真っ直ぐ上空に昇って、また真っ直ぐ降りるのを繰り返すんだ。
オイラはおっきくなるまでは、危ないから、ってしょーちゃんの掌の中に握ってもらってたんだけどね。
この次元を安定させる為の大事な仕事だ。

お勤めに臨むしょーちゃんの顔はキリッと引き締まって見えて、子供心にも、かっこいいなぁ、って憧れた。



朝のお勤めが終わると頭の上の定位置に乗せてもらい、ゆっくり泳ぎながらお山の守護をする。

春から秋までは里者がお社に参拝にやって来るから、懸命に登って来るのを助けることもあったし、お社で必死に神様に願掛けするのを一緒に聴いて、それを叶えることもあった。

けど、オイラがチビのうち、しょーちゃんはまずオイラが一人で泳げるように教えるのを優先してたみたいだ。
お山には他にも神様にお仕えしている眷属がいるしね。



『智っ、準備はいいか? 躰全部で風を感じるんだぞ』

『うんっ! いーよ!!』

オイラは空を泳ぐしょーちゃんの頭の上に乗って、しっかり鬣(タテガミ)を掴むと、そーっと脚を浮かせることから練習を始めた。

向かい風の中に飛び込んで行くと自然に脚が浮いて躰が流れるから、逆らわずにゆらゆら揺らして身を任せるんだ。

空高くで泳ぐとひんやりした空気がスースーして、しゅわ~って、浄化される。
泳ぐのが嫌いな龍なんて居ないけど、オイラは本当に空に居るのが心地良くて大好きになった。

雲の中を抜ける時は真っ白い靄を我が身で切るように、すいーっと、しゅーっと泳ぐんだけど、陽の光で雲の水分が輝いて色を見せることがあって。彩雲だよ、ってしょーちゃんが教えてくれた。
それを見つけるのが毎日の楽しみだった。



オイラ、大人になってから思い出しては感心したんだけど、しょーちゃんは教えるのが凄く上手だったんだと思う。

イルカの親が子供を下から支えて息継ぎを覚えさせるみたいに。燕の親が巣に近い枝に飛び移ることから手本を見せるみたいに。小さなことから少しずつ出来ることを増やして、泳ぐことに馴染ませてくれた。

しょーちゃんは笑い上戸でいつも朗らかだったから、オイラは楽しみながらやれたんだ。

ストーリーメニュー

TOPTOPへ