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龍と鳳

第13章 人の子

お社から一番近い鳥居の外に立っていたのは行者姿の子供天狗だった。見た目の年齢はオイラと変わりないように見える。
一丁前に一本歯の下駄を履き、背に木箱を背負って杖を握っていた。

「おお、遠路はるばる、このような東の地まで、ようこそお越しくださいました」

しょーちゃんは大人の天狗にするのと同じように頭を下げて、子供天狗を丁重にお迎えした。

「われは紀州熊野からまかりこしました、大天狗昌行坊の使いにございまする。この度は緋龍さまへの書状をおとどけにあがりました。まずはお山の神さまへごあいさつ申しあげたく、おとりつぎをお頼みもうしまする」

難しい言葉を使って挨拶するちびっ子大天狗を、目を細めてニコニコと見つめてる。

「これはこれは。大変にしっかりしたご口上、恐れ入りまする。私が緋龍のショウでございます、お見知りおきくださいませ。して、ご使者様のことは何とお呼びすれば?」

「岡田とお呼びくださりませ」

「ほう、氏をお持ちか。さぞ、ご立派な大天狗におなりになることでしょう。神前へご案内致します」

オイラは口を開けたままで二人の顔をそれぞれ見やりながら、しょーちゃんは子供天狗が来ることを知っていたのだと思った。

「しょーちゃん……」

不安になって袂を引っ張ると、いつものように笑いかけてくれて背中に手が触れる。それで安心した。

「岡田君、これなるは私が世話をしております青龍、智と申しまする。羽を休める間、良きお話し相手となりましょう」

しょーちゃんの手が促すまま、オイラはぺこりと会釈をした。

「智殿、よろしゅう」

賢そうな顔ではにかみながら、天狗の子供がオイラを見る。
何と返せば良いのかわかんなくて、しょーちゃんを見上げた。

「智、岡田君は昌行坊のお使いでいらしたんだよ。大天狗の坂本君には会ったことがあるだろう? 今年も春の御鏡渡の儀にいらしてる」

ああ、と思い出して頷いた。
カラスの嘴を持ってるのが烏天狗。
鼻が高いのが大天狗。
どっちも背中に黒い羽があって空を飛べる。
そう言えば神事の際、しょーちゃんはやって来た天狗達にはいつも丁寧に接していたっけ。

「岡田君は今夜お泊りになるよ。いろいろと熊野の話など聞かせてもらおう」

貫禄ある天狗達の姿を思い出し、オイラも挨拶した。

「岡田君、よろしゅうお願いいたします」

これが岡田っちとの出会いだ。

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