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龍と鳳

第13章 人の子

子供天狗の岡田っちはお山の神様にご挨拶をしたあと、お社の中の一室でしょーちゃんに文を渡した。
丁寧に受け取ったしょーちゃんは巻かれた紙を広げて頷きながらフムフムと読んでいる。

しょーちゃんの脇にくっついて座っていたオイラは、この頃ちょうど手習いを始めたばかりで。文字を読むのが楽しい時期だったから興味深くそれを覗き込んだ。

オイラ達は基本的に、誰かに用がある時は念話か直接相手のところへ出掛けて行って話すのが普通だから、手紙自体がまず珍しくて。
まだ黙読が出来なかったオイラは、書かれていた平仮名を声に出してそのまま読んだ。

「は、じ、め、て、の、お、つ」

途中でしょーちゃんが、こら、と言ってオイラの口を手で塞ぐ。

『見聞を広めさせるべく旅に出す
粗相があるやも知れぬが
はじめてのおつかい故宜しく頼む』

はじめてのおつかい?

口を塞がれたまま目だけでしょーちゃんを見上げる。
にっこりと微笑んだしょーちゃんが、岡田っちに柔らかく言った。

「この文にはお返事をしないと。申し訳ないが、じっくり考える必要があるので数日泊っていただけますか?」

「かしこまりまいた。昌行坊からも必ずお返事をいただいて戻るように言われておりまする」

大きな目を優しく細めたしょーちゃんはオイラと岡田っちを交互に見て頷くと、オイラに、お山をご案内して差し上げると良い、と言った。

「空を泳いでもいい?」

「いいよ。陽が翳る前に必ず戻るならね。
岡田君、龍の背に乗ったことは?」

「ありませぬ」

「ならば良い機会。智、岡田君を乗せてお山を一回りしておいで」

「はーい。ってオイラ誰かを乗せたことなんか無いよ?」

「いつも乗せてもらう方だったもんな。
岡田君に練習相手になってもらったら?
なに、岡田君なら人の子とは違い翼がある。
落ちても平気だ」

「あ、そうか」

「えっ!?」

ふふっ。あん時、岡田っちは目を丸くしてたっけ。



それからオイラは岡田っちを乗せて、いつもしょーちゃんとお勤めで回るコースを泳ぎながらお山を案内した。
種族が違っても子供同士、仲良くなるのはあっと言う間だ。

岡田っちが暮らす紀州熊野の話が面白くて。
お山を離れたことが無いオイラには珍しい話ばかりで凄く楽しくてさ。
行ってみたいなぁ、と思ったし、岡田っちもウチのお山を物珍しそうに眺めてたよ。

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