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龍と鳳

第13章 人の子

岡田っちは空から見下ろす下界に広い平地があることにとても驚いていた。

当時のオイラはここしか知らなかったからピンと来なかったけど、西の方は海と山の距離がもっとずっと近いんだそうで。山裾からずーっと続く田んぼの風景が珍しいのだと言っていた。

季節は夏で、確かに青い稲が風にそよぐ様が清々しい頃合いだった。

『智君は人里には下りないの?』

すっかりくだけた口調になった岡田っちが語りかけてくる。

『うん。オイラまだ子供だから、しょーちゃんに一人で行ったらダメだって言われてる』

『そうか。オレは今回、もう小さい子供じゃないから一人で行ってきなさい、って言われた。でもオレたち、多分同じぐらいの年だよね?』

『だよね? じゃぁさ、オイラも今度一人で熊野まで行くよ!』

『なら、その時はオレが智君をあんないする!
那智の滝には大きな龍がいるから連れて行くよ!』

『大きい龍? しょーちゃんより大きい?』

『どうかなぁ』

他愛もない話をしながら緩やかにお山を回って、だんだんと高度を下げて行った。

ちなみに岡田っちはオイラの首のとこに乗ってたんだけど、オイラが普段の調子で泳いでたらバランスが取れなかったらしくて、二回滑り落ちたんだよ。
でも、しょーちゃんの言った通りで、既に空を飛べるから全然平気で笑ってた。

龍に乗った感想は、自分で空を翔るのに比べると早さが段違いなんだって。あと、高さも違う、って驚いてた。

那智に居る龍は滝を守るのがお仕事だし、大滝の神様の眷属だから、子供天狗を相手に遊びで背に乗せたりはしないみたい。

天狗はオイラ達と違って二形(フタナリ)じゃない。
つまり最初から翼のある天狗の姿で存在してるから、空から落ちても慌てることもなく、サッと翼を広げてすぐ風に乗ってたよ。

だけど、あんまり高いところだと寒くて翼が凍えそうだ、って。同じ空を飛ぶ種族でも、やっぱり違うもんなんだな。

天狗はさ、経も唱えるし、仏教の修行もするんだ。
だから神社だけでなく寺にも行くし、僧侶とか人の子に会う機会も多くて。
そういう時は変化の術で姿を変える。
里に下りて人に話しかけて、ちょっと揶揄ったりすることもあるんだって。

『先輩のイノッチがそういうの好きなんだよ。
イタズラ好きでひどいんだから。
あと健坊と剛坊の二人。
智君も熊野に来たら会えるよ』

『へぇ~』

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