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龍と鳳

第14章 龍の涙が降らす雨

「よし、いっしょに行こうっ」

「うんっ」

オイラが人形(ヒトガタ)を解こうとした時、お山の神様からお声が掛かった。

『ならぬ』

「えっ?」

「神様?」

オイラ達は驚いて固まった。
いわゆる高級神霊であれば日輪の保護の元存在しているのは皆同じだ。
お山の神様だって例外じゃない。

いつもは夜にお話することをオイラ達の方で遠慮するし、ましてや神様からお声が掛かることなんて殆どないのに。

『お前たち二人ではあの娘の元まで辿り着けまい。身を損なうやも知れぬ。昇龍が戻るのを待つのじゃ』

「でも神様っ、あの娘っ子がまだ一人であそこに居たら、朝が来る前に死んでしまうよっ!
お山の夜は人の子には寒いもんっ」

「神様にもうしあげまする!
あの娘の病を祓ってくださりませっ!!
我らの姿が見えたのですっ。心の清い娘でございまするっ」

『それはならぬ』

「何故にございまするか!
神様のお力をもってすればっ……」

言いかけた岡田っちが急に口を噤んだ。
言葉にするのを控えた想念が届く。

『もう、間に合わぬのか……あの娘、死ぬのが分かっていて置いていかれたんだ……お山に捨てられた……』

「えっ……」

オイラは思いもしなかったことを聴いて、瞬きも出来ずに岡田っちを見つめた。
神様のお言葉が続く。

『娘自身も望んだのじゃ……
我ら神にはイノチの意志こそが最も尊い。決して侵すべからざるもの。本人が望まぬものをながらえさせることは出来ぬ』

「あの娘、すべて承知でここまで……」

岡田っちの声が尻すぼみに小さくなって、その目にみるみる涙が浮かんだ。

「えっ!? 何? 何なの!?」

「なんと罰当たりな……神のおわすお山をけがすことになるとも知らず……うっ、ううっ……愚かなっ」

とうとう泣き出した岡田っちを見て、オイラまで涙が出てきた。

「岡田っち! 何だよ、泣くなよ!
うっ……早くっ……早くあの娘のところに行こうっ!!
しっ、死んじゃうんだろっ……うっ、うええ~~。
死んじゃうよお~~~うあ~~ん」

「ううっ……うっ……うっ……」

泣いているオイラ達の周りを神様の慈しみの気がふわりと包んだ。

『智、准一。昇龍と娘を見せてやろう。目を閉じなさい』

オイラと岡田っちは、しゃくりあげながら縁側に腰を下ろして、目を閉じる。
里の景色が浮かんだ。

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