メランコリック・ウォール
第21章 異物
「ゆりちゃん、今日はおごらせて」
「えぇ、いいですよぅ、気にしないで下さい!」
「いや…本当に。」
「…なにがあったんですか?森山さんとなにか…?」
「ううん。…夫のことなの」
「オサムさん?」
ゆりちゃんは話を聞くため姿勢を整えた。
「今日さ…」
「はい…」
「家にね、帰ったら…夫の部屋から、女の喘ぎ声がしたのね」
「うわぁ…AVですか?」
「それが……桜子ちゃんがいたの、一緒に…!」
「ええええぇっっ?!」
目も口も大きく開けて、彼女は驚愕した。
「ま、まさか喘ぎ声って…」
「そう…。あの2人、そういう事してたのよ。」
それから改めて、今日起きた事を一連の流れで説明した。
「戸を開けたら、夫が覆いかぶさっててね。桜子ちゃんの服も乱れてて。」
「生々しい…。」
ゆりちゃんは胸元を押さえ、まだ止まぬ驚きを必死に落ち着かせていた。
…
「アキさん、これからどうするんですか?…」
「うーん…。正直まだそこまで具体的に考えられるほど、状況を理解できてなくて…」
「そうですよね…親方が知ったら、どうなっちゃうのかな…」
「想像つかないね。きっと、ウチとは決裂かな…」
「そしたら色々と問題も出てきますね」
「うん。単純に売上も減るし、噂も広がって…商売できなくなるかも」
「…」
「大丈夫、ゆりちゃんを路頭に迷わせたりは絶対にしないからね。」
不安そうな顔をした彼女に言う。
「そんな事はいいんですよぉ!!」
「え?」
「私はアキさんが心配です。こんな事になってもオサムさんを見捨てないアキさんが…」
「ふふ、ありがとう。でも…そういうわけじゃないの。会社が駄目になっちゃうと、ゆりちゃんも…キョウちゃんも、仕事を無くすでしょう?正直、夫のことは……。無責任よね」
「いいえ。即座に離婚でもおかしくないと思いますよ。アキさんは凄いです…」
「はは…正直、相当だよ。顔も見たくない。」
「そりゃ、そうです。当然です!」
ゆりちゃんは憤りを落ち着かせるかのように、冷たいビールをグビッと飲んだ。