メランコリック・ウォール
第21章 異物
夫になにかを期待しているわけでは全くない。
けれど、急激に孤独を感じたのは事実だった。
生まれ育った家でもないこの場所に、私だけがいる。
この家の中で、私の存在は異物であるかのように思えてくる。
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ベッドに横になり、桜子ちゃんとオサムの姿を思い浮かべていた。
まさかあの2人が…。
未だに信じられない気持ちと、どこか吹っ切れた気持ちとが交差する。
携帯が鳴り、キョウちゃんからのメールで彼が九州の実家に無事到着したことを知る。
添付されている写真には、綺麗な浜辺が写し出されていた。
ーーー今すぐにでもキョウちゃんに会いたい。
けれど彼は今、遠くで大切な時間を過ごしている。
いてもたっても居られず、私が電話をかけたのは…ゆりちゃんだった。
「もしもし、アキさん?」
「あ、ゆりちゃん…ごめんね、お休みなのに」
「全く問題ないです!なにかありました?」
この事実を知るわけもない彼女は、今日も明るく答える。
「今、…トモキくんと一緒だったりする?」
「いえ、明日の夜に少し会う予定ですけど…アキさん?どうしたんですか?」
「今日、会えないかな…」
理由は聞かず、ゆりちゃんは二つ返事だった。
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1時間後、約束のバルに着く。
ここまでどのように歩いてきたか、記憶が定かではない。
いくら関心のない夫のこととはいえ、相当に動揺しているのだと実感する。
まだ開店時間を迎えたばかりの店内に入りカウンターに座ると、間もなくゆりちゃんもやって来た。
「アキさん!」
「ごめんね、急に…」
「嬉しいですよ、週末にお誘いがあるなんて。退屈してたので」
今すぐに言ってしまいたい衝動を抑え、お酒が運ばれてくるまで待った。
ゆりちゃんも、急かすことをしなかった。
「「お疲れ様です」」
ビールジョッキをぶつけると、ゴクリと一口飲む。
いつもより苦く感じるそれは、チクチクと口の中を冷やした。