メランコリック・ウォール
第22章 家族
「そうだな。それが家族、なんじゃないの?」
この瞬間、錆びついていた心のネジが心地よく緩んだ感覚がした。
「そ…っか…」
なぜ今まで考えなかったのだろう。
私とオサム、そして義父…互いに、家族という認識でいたのかどうか。
正直オサムには情も失くしてしまった。
義父にはそれなりに恩も情もあるけれど、それは”家族”とは全く別物だと分かる。
…キョウちゃんが、握っていた手に力を込めた。
「俺いま、すげえもどかしい。なんでそこまでの事があっても…家族でいるのか。」
「私は…ーー」
家庭がバラバラになるのが怖いんじゃない。
会社が行き詰まり、ゆりちゃんやキョウちゃんや親方を困らせるのが怖いんだ…。
でも、それを言えばキョウちゃんは ”そんな考えやめろ”と言うに決まってる。
「何?」
「ううん。…ちょっと、時間かけて考えたい…」
「…ん」
…
少しのドライブの後、車はあるお店の前で停まった。
”氷”というのぼり旗が出ているそのお店は、海の家のような作りだ。
「かき氷、食おうぜ!」
「えっ?う、うん!」
車から降り、たくさんあるかき氷のメニューを眺める。
「どれがいい?」
「うぅん…迷っちゃうなぁ」
「デラックス宇治金時…」
キョウちゃんがつぶやくので目線の先を見ると、たっぷりのあんこと白玉の乗った写真が貼られていた。
「美味しそう…っ!」
「な!」
注文し、お店の人が作ってくれると写真の通りの豪華なかき氷が出てきた。
「うわぁ、すごいね!」
車に戻り、2人でつついた。
なんて楽しい夏なんだろう…ーー。
束の間、現実から逃避しているこの瞬間、キョウちゃんがかけがえのない存在だと改めて思う。
「ん?どした」
私の視線に気付いた彼が優しく微笑む。
「ううん…。」
ゆっくりと近づく唇。
そっと触れ合い、やがて互いに舌を預けた。
車内に接吻の音が響き、氷で冷えた口内からじわりと唾液が溢れてくる。
「ん……」