メランコリック・ウォール
第23章 愛でて撫でる
夏の匂い。
焦げ付くように焼けた彼の腕。
渇きを知らない2つの唇…ーーー。
彼の、深くて熱いキス…私は昇天しそうなほどの恍惚感に充たされていた。
私たちは初めてのキスから2ヶ月の月日を、こうして唇で確かめ合ってきた。
知り尽くした舌の温度、少しの癖、唾液の味。
口づけを交わすたび、”もう離れられないのだ” と、言葉にならないなにかで知らしめられている気分だ…。
…
しばらく、その駐車場でキスをしたり、じゃれあったり、またキスをした。
すっかり薄くなった胸元の痕は、また命を吹き込まれたように赤く色づいた。
どこへも行かなくても、キョウちゃんといれば満たされる。
「そろそろ時間だな」
終わってしまうのは惜しいけれど、ゆりちゃんを迎えに行かなければならない。
そして、気の重くなる打ち上げにも…ーーー。
小さなアパートの前に着き、すでに待っていたゆりちゃんを後部座席に招き入れる。
「暑かったでしょう?中で待ってて良かったのに」
車は走り出し、月の宮旅館へと向かった。
「森山さん、今日も一人部屋ですか?」
「ああ。そうだけど」
「ふふっ。それなら、夜またアキさんを貸さなきゃいけないかな?」
「あははっ。そりゃ、どうも。恩に着ます。」
2人のやり取りに笑いながら、今夜もキョウちゃんと星が見られたらいいな…と思った。
やがて旅館について入り口まで歩いたその時、ブゥーンと車の音がした。
見るとオサムの車で、助手席には親方が座っていた。
親方の孫娘に手を出し、自ら進んで車に乗せ、妻の目の前に現れる。今、どんな気持ちでいるんだろうか。心底分からない。
私はすぐに見るのをやめた。
「うわぁ。やっぱり乗ってますね。」
ゆりちゃんいわく、後部座席には桜子ちゃんが乗っていたらしかった。
ますます、あの人の気が知れない。
…
チェックインをして、エレベーターに3人で乗り込む。
降りるとそこには関係者がいて、挨拶をしながらガヤガヤと盛り上がった。
一旦キョウちゃんと別れ、ゆりちゃんと部屋へ入る。
「今日は前回よりも人数が多いんで…なんだか疲れますねぇ」
「そうだね、もうすでに疲れちゃった…はは」