メランコリック・ウォール
第23章 愛でて撫でる
私たちは前回と同じように温泉に入り、浴衣を来て、時間になると大広間へと向かった。
それぞれに抱えている思いはあるものの、宴会は滞りなく進んでいった。
「今夜は、トモキくんが出張で県外なんです。」
「そうなの?大変だね」
「でも、ビジネスホテルに泊まってて夜は1人なんで…アキさんがお出かけの間、ゆっくり電話で話せそうなんですよぉ」
「…なるほどね。ふふっ」
「なので、…ごゆっくりです!!えへへっ…」
「もしかして、気を使ってくれてる?」
「いえっ!彼とゆっくり話せるの嬉しいなぁっていうのが第一です(笑)」
「そっか、それなら良かった(笑)」
2時間の宴会の間、桜子ちゃんは私たちに少しも近寄らなかった。
オサムや曽根さんたちにチヤホヤされながら、時折こちらを向き…ニヤリと意味深な笑みを浮かべていた。
気にしてはいないけれど、オサムのデレデレとした…どこか優越感にも見えるその態度が、ひたすら気色悪かった。
おおかた、”この可愛い女の子を俺は抱いたんだぞ”とでも思っているのだろう。
…
一本締めで一次会が終わると、彼らはまとまって二次会の会場”金魚”へ、それはそれは楽しそうに向かっていった。
もはやオサムの脳内に、「妻」や「アキ」という言葉は抜け落ちているように思う。
私たちは二次会に参加せず、ひとまず部屋に戻った。
「なんだか私が怒れてきちゃいますよ。オサムさんの態度…!」
「もう、宇宙人みたいな感覚だよ…尊敬するくらい。あの人はすごい」
「感心してる場合じゃないですよう!…このまま放っておくんですか?」
「今はね…。それに私も、人のこと言えないの。キョウちゃんにばかり気が行って…」
ピコンと携帯が鳴り、キョウちゃんから部屋のナンバーが知らされる。
「…私もアキさんも、ルール違反な恋愛でしょう。だけど…それでも、私はアキさんの味方ですっ…!」
「…えへへ。ありがとう。私だってそうだよ。おおっぴらには言えなくても、ね。」
私は部屋を出て、キョウちゃんの元へ向かった。