メランコリック・ウォール
第24章 男と女
「…お、お前…っ、何言ってるのか分かってんのか?!」
「分かってます。オサムさんはどうなんですか?」
「…何がだ。」
「自分がどんなこと言ったか、分かってます?アキさんはあなたのペットかなにかですか。」
「…チッ。生意気な…。」
…
「オサムさんは、私のことすっごく大切にしてくれるもん。ねぇ~?」
桜子ちゃんがそう言いながらオサムに甘え、なだれかかる。
「ちょ…桜子ちゃん…」
「あぁ~、もう酔っ払っちゃったよぅ。オサムさん、部屋まで送ってぇ~!ふふふ」
何が面白いのか。
この場でたった1人笑っていられる気が知れないが、ここにいる人間は皆、神経が図太いのは確かだろう。
「どうなるか分かってんのか。」
「…なにが?」
「お前は路頭に迷う事になる。お前は仕事を失うぞ。」
私とキョウちゃんに目を向けながら、捨てゼリフでも吐いているつもりなのだろうか。
「あなた自身の事は分かってないみたいね。…親方に知れたらどうなるのか分からないの?」
「…チッ。勝手にしろ…出ていきたいなら出ていけ。…俺は何もしてねぇ。」
最後に自分を正当化するような言葉を平気で発したあと、桜子ちゃんを送りに…あるいは桜子ちゃんと寝に、ここから去っていった。
…
2人の姿が見えなくなると、目を見合わせた。
「大丈夫か?」
「うん…ごめんね、キョウちゃん。巻き込んじゃって…」
「何言ってんの。俺たちの問題でもある。」
「…」
「違うの?」
「ううん。」
この場所で油断は出来ない。
そっと手を握り、熱を分け合った。
じわじわと、さっきキョウちゃんが言ってくれた言葉が蘇る。
私への想いも、私がオサムに言いたかったことも、彼の口から出た言の葉はどれも私を満たした。
「俺、月曜日からさっそく仕事無いのかな。」
半笑いで言うキョウちゃんは、全く気にする素振りもなく平気そうだ。
オサムに、キョウちゃんを解雇できるような権限はない。
それに、私たちのことを周りにバラすのは自分の首を絞める事にもなる。
あの男が、そんな事をするわけがない。