メランコリック・ウォール
第24章 男と女
「それはない…と思うけど、もしもの事があったら…」
どうやって償えばいいだろう。
「ね、アキ。なんで1人で抱え込むの。自分が悪者みたいに考えてるだろ。」
「えっ…」
「アキに近づいたのは俺。悪いのは、俺。でもどうしてもアキが欲しいから…それで仕事クビになるなら仕方ない。塗装屋は他にもあるし、何とでもなる。」
「キョウちゃん…」
「アキが自分のせいだって悩むのが1番嫌。」
「でも、私もキョウちゃんを受け入れたし、求めた。だから…」
「ははっ。…2人で考えよう、大丈夫。」
あんな事があった直後なのに、キョウちゃんへ向く恋心が止まらない。
「うん…」
「…路頭に迷うぞって言ってたけど、俺がそんな事させるわけないっつの、なぁ。」
「キョウちゃん…」
「ん?」
「チュウして、1回だけ…。」
誰かが戻ってくるかもしれなくても、どうしても今、彼の唇が欲しい。
オサムに偉そうなことを言っておきながら、結局は私も同じ穴の狢なんだ。
「ーーアキ」
名を呼びながら私の腰を寄せ、強く抱きしめた。
胸板に頬を寄せ、全身で彼を感じた。
おでこにチュッとキスされ、次は頬…そして唇と唇が重なる。
ほんの少しの時間だけれど、さっきの出来事を浄化するにはじゅうぶんだ。
それほどに、2人のまわりには愛情に満ちたオーラが漂っていた。
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月曜日が来た。
オサムとキョウちゃんが険悪なムードでお開きとなった打ち上げから、初めて顔を合わせる今日…。
なんとなくそわそわと落ち着かない自分を隠しつつ、朝食をとる義父にお茶のおかわりを注ぐ。
「お、ありがとう。」
義父に、なんら変わった様子はない。
おそらくなにも聞いていない。
そう分かってはいても、どうにも気になってしまう。
…
カラカラと戸が開き、「おはよ」とキョウちゃんが入ってきた。
今日は一段と早い。
「あ、おはよう…早いね。」
「クビかどうか聞きに来た」
彼はそう言っておどけ、”冗談だよ”と笑った。