メランコリック・ウォール
第24章 男と女
相変わらず平気そうに、いつもどおりにお茶を飲み、煙草に火を点けるキョウちゃん。
「おはようさん」
やがて親方もやって来た。
大きな現場が終わり、これからしばらくはそう忙しくない日々が続くはずだ。
私が手渡した1週間分の現場の書類を2人が確認する。
…奥から義父とオサムが近づいてくるのを、足音で感じた。
胸が騒ぐ…ーー。
「「おはようさん」」
親方と義父はいつもどおりに挨拶を交わす。
オサムは道具や書類の準備に忙しいとでもアピールするように、がちゃがちゃとせわしなく動いている。
落ち着き放っているキョウちゃんはオサムをしばらく見ていたけれど、目を合わせようとしない姿を確認すると私に目配せして舌を出した。
「おはようございます!」
ゆりちゃんもやって来た。
あの夜、なにが起きたのか…部屋に戻ってから、既に話はしていた。
状況を知っている彼女も、ひとまずは知らん顔をしてデスクに着席した。
やはり気にはなるようで、チラチラと2人の様子を伺っている。
…
皆が現場に出払って2人きりになると、ゆりちゃんは”ハァーーーッ”と大きな息を吐いた。
「ごめんね、なんだか気を使わせちゃって…」
「いいんですよ。謝らないで下さい!それにしても…なんだか案外、フツーでしたね」
「そうだね、気味が悪いくらい…」
「やっぱり予想通り、オサムさんは誰にも何も言えなかったんですね。」
「うん…言えないよね、まさか桜子ちゃんに手を出したなんてバレたら…ねぇ。」
「やばいですよね…。」
ーーー結局、これと言って事件は起きないまま数日が過ぎた。
あの夜の出来事がまるで夢だったかのように、3日も経てば誰もがいつもどおりに業務をこなすようになっていた。
この週末、私はやっと実現するキョウちゃんとのデートを控えている。
どこか宿を取って泊まろうと言うキョウちゃんに、私は”もう一度キョウちゃんの部屋で眠りたい”と望んだ。
そんなんでいいのか?と彼は言ったけれど、私は前回思いがけずあの部屋で眠ったときの心地よさが忘れられなかった。
誰かと寄り添って眠りについたのも、気持ちよく熟睡したのも、随分と久しかった。
あの安心感が欲しい。
彼の腕の中で、夢へと落ちていきたい…ーー