メランコリック・ウォール
第25章 水族館で
9月に入りはしたものの、まだまだ暑い日が続いている。
「ゆりちゃん、これネットでお取り寄せしてみたの。食べない?」
金曜の午後、私は奥にある冷蔵庫から箱を取り出して事務所へ戻った。
「おぉ?なんですか?」
「タップスのチョコケーキ。知ってる?」
「わぁぁー!知ってます!北海道だと行列ができてるお店ですよね?!」
「そうそう!」
「せっかく手に入ったのに、良いんですか?」
「うん。ゆりちゃんと食べたいなーって思ってたから。」
「う、嬉しい~!」
「最近、特に迷惑かけちゃってるから…せめてもの償いデス。えへへ…」
以前にも増してオサムと会話をしなくなり、書類の受け渡しや必要事項の報告などをゆりちゃんが引き受けてくれているのだ。
「えぇ、そんな。気にしないで下さいよぉ、仕事なんですから」
「ありがとう…なんだか情けないけど、ホント助かってる。」
それから私たちは、小ぶりなチョコケーキを分け合って食べた。
「んん~~~!すっごく美味しい~~!!」
はじけるような笑顔が咲く。
「明日ね。デートなの」
「現場、終わりましたもんね!やっとですね、ふふ」
「うん、やっと…。」
「楽しんできて下さい。どこ行くか決まりました?」
「水族館に行きたいって言ってあるの。…いい歳して、ちょっと子供っぽいかな?」
「そんな事ないです!デートと言えば水族館…なんだかよく分かります。いいなぁ…」
「ゆりちゃんは、最近どう?」
「特に大きな出来事はないですね…ただ、最近子供を全寮制の学校に転入させるって話が出てるみたいで…」
「小学生なのに?!」
「そうなんです。まず小学校で全寮制があるって驚きですよね」
「うんうん…なにか理由があるの?」
「なんでも、その学校っていうのがエリート校らしくって。幼稚園から高校までエスカレーター式なんですって。」
「す、すごい…」
「医大への進学率がかなり高いみたいです。寮生活の中で、勉強以外の面でもこの子のためになるから、って…奥さんが言ってるらしいんです。」