メランコリック・ウォール
第25章 水族館で
「教育ママとは聞いてたけど、それは相当…だね。」
「はい…。そこまでしなくても、ってトモキくんは言ってます。」
「寮かぁ…私なんかは平凡な家庭だからさ、小学生から寮って…寂しくないかな?とか思っちゃうなぁ」
「私だってそうですよぉ!」
「エリートのおうちは分からないね。」
「本当ですね…。でももし本当に全寮制に子供を入れるなら、夫婦は別居確定なんです。」
「そうなの?!」
「はい。それで私…そうなったら良いのにって思っちゃう自分もいたりして。でも子供のことを考えると、なんてことを思うんだ!って我に返って。最近それで、自分で自分を病ませてます。あはは…」
「んん…なんだかその感じ、分かるなぁ…」
こうしてゆりちゃんと秘密の会話をするようになってから、1ヶ月以上が過ぎた。
彼女はトモキくん以外には全く興味がないと言い、彼と会う約束が出来るまでムダ毛も放置なのだと笑う。
週明けには目の下にクマが出来ている事があり、昨夜は頑張りすぎちゃいました!…と、なんだかパワーがみなぎっていたりするのだった。
「ごちそうさまです。あぁ、美味しかったぁ…」
チョコケーキの皿を片付け、事務所に戻ると親方とキョウちゃんが現場から帰っていた。
「あら?おかえりなさい。今、お茶淹れます。」
「おう、早く終わったんだ。森山、今日使った塗料の在庫あるか見てきてくれ」
「あ、はい。」
親方にお茶を出し、キョウちゃんの分もテーブルに置いた。
すぐに戻ってきた彼は親方と仕事の話を始め、私はデスクに戻る。
ゆりちゃんは午後のドラマに夢中だ。
「そんじゃあ、俺ァ帰る。」
しばらくして親方が去り、やがてキョウちゃんも立ち上がった。
ゆりちゃんしかいないので、今日はお見送りが出来る。
あとをついていくように外へ出ると、「明日さ」と彼は喋り始める。
「うん?」
「何時に出れる?」
「何時でも。朝からでも。えへへ…っ」
「ははっ!俺も。朝メシ抜いてこれる?」
少しでも長い時間を共に過ごしたい。
その気持ちが通じ合っているようで嬉しくなる。
「うん!」