メランコリック・ウォール
第25章 水族館で
私たちは朝9時にコンビニで待ち合わせることを決め、別れた。
…
翌朝、二人分の朝食を用意する。
出かける準備も整った頃、義父が降りてきた。
「おはよう…出かけるの?」
「あ、はい…。友達のところに。」
「そうか」
「帰りは明日の夕方になると思います…」
「うん、ゆっくりしておいで。」
オサムと結婚してからの10年、浮気なんてした事もなければ、まさか自分がこんな嘘をつく日が来るなんても思っていなかった。
…
8時半に家を出た。
外ではもうセミが大合唱をしていて、太陽はギラリと元気な光を放つ。
コンビニの駐車場に、キョウちゃんの車が見える。
車を覗くが、彼の姿はない。
トイレかもしれないし…と、車のわきで待つ事にした。
照りつける朝の眩しさに目を細め、ふわりと流れる風で髪がなびく。
やっと、ゆっくり一緒にいられるんだ…。
胸が高鳴ったとき、名を呼ばれた。
「ーーアキっ」
振り返ると、コンビニから出てきたキョウちゃんが微笑む。
ひときわ背が高い彼の白いTシャツからは、引き締まり日に焼けた腕が伸びている。
揺れる毛先の1本1本さえも恋しい。
「どうした?」
車に乗り込んだ彼が、内側からドアを開けてくれる。
「ううん、何でもない。えへへ…っ」
これから2人きりで過ごすのだと思うと、なんだか照れくさい。
手をつなぎ、車は走り出した。
…
「ちょっと遠いけど、あのでかい水族館行こう。」
「本当?わぁ、嬉しいな。」
高速道路に乗ると、最初のサービスエリアで朝食をとる事にした。
コーヒーショップのテイクアウトを車内に持ち込み、運転する彼の食べるものを開封して渡したり、ポテトを口に放り込んだりする。
なんだか、そのへんにいるごく普通のカップルのようで浮かれてしまう。
2時間かかる道中は本当にあっという間だった。
どうか、ゆっくり時間が流れて欲しい…
心の中でそう願いながら、車を降りる。