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メランコリック・ウォール

第25章 水族館で


入場窓口でキョウちゃんがチケットを取り出した。


「…買っておいてくれたの?」

「ん?さっきコンビニで買ったんだよ。」

「そうなの、ありがとう…っ。」


ひんやりと涼しい館内は、土曜という事もあり家族連れやカップルで賑わう。


しっかりと握られた手はあたたかい。


私のペースに合わせてゆっくりと歩いてくれる彼は、水槽よりも私を見ている方が多いのではと思えるほど、よく目が合った。





クラゲのコーナーにやってくると、ふわふわと幻想的な水槽に見惚れる。


「わぁ…綺麗…。」

「こっちは種類が違うな。」

「…ほんとだっ!」


他愛のないやりとりが幸せで、ほんのささいな事でも口に出してしまう。

それは、キョウちゃんも同じのようだった。



”ーーードンッ!”


「…わぁ!!」


キョウちゃんの足元に走ってきた子供がぶつかり、転んだ。


今にも泣き出しそうな男の子の手には、この水族館の入場券が握りしめられている。


「大丈夫か?」


彼がそっと男の子を立たせ、髪の乱れを直してやる。


「お母さんいない」

それだけ言うと、男の子の目からぽろぽろと涙が溢れ出した。


「迷子になっちゃったの?大丈夫よ、私たちと一緒に探そう?」


とはいえ、この水族館は県内でも1番大きい。


キョロキョロと探し回るよりも、館内放送をしてもらうほうが良い。


ヒック、ヒックと涙が止まらない男の子を見兼ね、キョウちゃんが抱き上げた。


「ほら。背が高くなったら、こんな景色だぞ~。どうだ?ん?」


あやしながら、元気づけようとする彼に思いがけずときめく。



「…しゅごい」


男の子の涙は止まり、身長183センチの男に抱き上げられた珍しい景色を見渡している。


私はバッグからハンカチを取り出し、涙と鼻水でぐしゃぐしゃになった男の子の顔を拭いた。


「お母さん探そうね。」


入り口方面に引き返す。


キョウちゃんが抱いているのでお母さんがいれば気付いてくれると思うのだけれど、残念ながらそれらしき人物とはすれ違わないままサービスカウンターに到着した。


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