メランコリック・ウォール
第28章 波の音
オサムはまた、舌打ちをすると家を出ていった。
今日は土曜日。
また帰りは深夜か、朝方か…。
でもそんな事、私にはどうでもいい。
口うるさい夫がいない平穏な夜、用意しなくてもいい食事。
あくまで会社からは給料が出ているし、家計の財布も別。
オサムがいないと困ることが、見当たらない。
私は何故、この家にいるの……?
…
数日後、オサムがまた朝帰りをした。
今日は月曜日だと言うのに。
「風呂わかせ。」
「…あら、外で入ってきてるんじゃないの?」
「あぁ?…チッ」
「今何時だと思ってるの?今日は月曜日よ。よその人と遊ぶのは良いけど、お酒と香水の匂いがすごいわよ。もう少ししっかり出来ないの?」
すらすらと、止めどなく小言が出てくる。
オサムはキッと私を睨みつけた。
「うるせえな。」
聞こえていたであろう義父は何も言わず、夫婦が険悪になっている事には気付かないフリで過ごしている。
ここのところ、ずっとだ。
この時をさかいに、オサムは私に指図をしなくなった。
夫婦の会話はゼロに近くなり、家族3人、誰も修復を試みることもしないまま日々が過ぎた。
会社でも私とは目も合わせず、書類の受け取りも乱暴なものだった。
ちょっとしたミスがあれば、ここぞとばかりに罵られ、怒鳴られた。
「オサムさん、今日もイライラしてますねぇ…」
ガタンガタンと大きな音を出すオサムに、ゆりちゃんが憂う。
「しょっちゅう外の女と遊んでて、家ではあれ。信じられないよね~」
「若い子に遊んでもらってるのに、なんであんなに不機嫌なんでしょうね。」
「単に私の事が気に入らないんだよ、きっと。」
「えぇ…子供じゃないんだから…」
「本当よね。」
…
10月に入ると、季節がカレンダーに合わせるかのように一気に秋めいてきた。
日差しは優しく、少し切なく差し込む。
10月6日、誕生日がやって来た。