メランコリック・ウォール
第28章 波の音
朝6時にキョウちゃんから”誕生日おめでとう”のメッセージが届く。
この歳になると友達とのそんなやり取りも減るもので、私は久しぶりの感覚に胸が踊った。
オサムからの言葉は当然のように無いが、毎年の事なので全く気にならない。
…
「…おざっす」
事務所で義父と一緒に現場の書類を確認していると、キョウちゃんが出勤してきた。
口には出さないけれど、いつもとは違う微笑みをくれた。
好きな人が誕生日を気にしてくれるって、こんなに嬉しかったっけ。
もう、過去は遠く薄れて見えない。
「おはようございまーす!アキさん、お誕生日おめでとう~~!!!」
やって来て早々に、ゆりちゃんが大きなプレゼントを持ち上げて言った。
家族である義父や夫からの祝福はなくても、私はとっても幸せだ。
「えぇ、こんなに大きなもの…大変だったでしょう?ありがとう…!開けてもいーい?」
「うふふっ。もちろんです♪」
大きな白色の袋に包まれたプレゼント。
ピンク色のリボンを解くと、中から葉っぱが見えた。
細い枝が40センチほど伸びていて、みずみずしい葉がたくさん付いている。
「わぁ」
取り出すとそれは鉢植えになっていた。
「これ、なんて植物?」
「クチナシです!初夏に白い花が咲くんです。アキさんって、白い花のイメージなので!えへへ。」
「嬉しいなぁ…大切にするね。」
「花言葉は……… ”とても幸せです” 」
「ふふ…そうなの。素敵ね…。」
つい、キョウちゃんを見てしまう。
今日が私の誕生日だった、と気付き焦る義父の隣で、彼はにっこりと笑っていた。
無言でオサムがやって来て、男たちは現場へと出かけていった。
「花が咲くの、楽しみだなぁ…。」
「すみません。私、なんだかいろいろ迷っちゃって…咲くまで時間がありすぎますね(笑)」
「ううん、いいの♪楽しみができて嬉しいよ。」
せっかくなのでしばらく事務所に置いておくことにした。
私のために花を選び、この大きな鉢を持ってせっせと出勤してきた彼女が愛おしい。