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メランコリック・ウォール

第28章 波の音


「車、戻ろうか。」


どのくらい、波の音を聞きながら口づけを交わしていただろう。

もうずいぶん夜が更けたはずだ。


「うん。」


助手席に乗り込み、彼がエンジンをかけると途端に寂しくなってしまう。


「これから、どんどん忙しくなるね…。」


「そうだな。アキの顔見れることだけが救い(笑)」


歯を見せ、ククッと笑う彼は、忙しい時期になると少しやつれる事を知っている。


「キョウちゃん…」

「ん?」


「今度、なにかごはん作って…持っていってもいーい?」

「マジ。やった。……じゃあ…」

「…?」


キョウちゃんはごそごそと後部座席に手を伸ばす。


茶色の包装紙に包まれた小箱を取り、私に手渡した。


「……え?」

「誕生日プレゼント。」

「えぇっ?そんな…いいのに…!」

「いいから、開けて。気に入るかな…」


赤いリボンをしゅるしゅると引き、箱を開ける。


中にはアンティーク調の木箱が入っていて、私は混乱した。


「箱から、箱が出てきた…!」

「ははっ。出してみ」

「うんっ」


取り出すと、やはりシンプルな木箱だ。


特に深く考えないまま、私はそれをパカッと開けた。



「ーーーッ!?…え!これって……」


目を見開き、彼を見つめる。


「…ごめん、図々しいかな。でも、アキには持っててほしくて」


優しく微笑む彼と、木箱とを何度も交互に見た。


その木箱はオルゴール付きの小物入れで、中にはカギが入っていたのだ。


「キョウちゃんちの…だよね?」

「そう。」


胸がどきどきする。
私は今、紛れもなく恋をしている。


「あ、…ありがとうぅ…!嬉しい。」


たまらず彼に抱きついた。


「ははっ。…これでアキはいつでも、俺のところに来れる。俺が居なくても勝手に入れるし、突然来ても良い。」


「うん…、うん…っ」


なんて素敵なプレゼントなんだろう。


これひとつで、こんなにも安心できる。
心が満たされていく。


私は早速、そのカギをキーリングに付けた。


あの日、キョウちゃんと一緒に買った星のキーリングに…


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