メランコリック・ウォール
第29章 香水
すっかり寒々しく散った枯れ葉が舞う。
11月のある日。
「明日、町内会の旅行で居ないから。よろしく」
義父は梨狩りのパンフレットを手にしながら言う。
「梨狩りですか?良いですね。」
「ああ。お土産で持ってくるよ」
オサムは聞いているのかいないのか、無言で味噌汁をすすった。
明日はまた、キョウちゃんの家に行く予定だ。
私の外出に口を出されるわけではないけれど、いないのは気楽でもある。
「最近忙しいので…たまにはゆっくりしてきて下さいね。私も明日は、ちょっと出かけてきます。」
…
翌朝、ずいぶんと早くに義父は家を出ていった。
人の気配で目が覚めたが、またすんなりと眠りに落ちた。
ふたたび目が開くと、時間は朝9時を過ぎている。
寝過ぎちゃった…。
キョウちゃんは免許の書き換えで午後まで不在だ。
先に、食材を買ってこよう。
…
薄化粧をすると私は外へ出た。
徒歩20分かかるスーパーへ向かう。
今夜は何を作ろうかな?
寒いから、シチュー?
お鍋も良いなぁ。
1人、いろいろなことを思いながら買い物を進める。
義父やオサムに作る食事とはワケが違う。
キョウちゃんが食べてくれると思うとワクワクし、気合いも入る。皮肉だが、事実だった。
「・・・ふぅ。」
他にすることもないので長い買い物になってしまった。
一休みしようとコーヒーショップへ入り、窓際の席でカフェラテを飲む。
[もうすぐ終わる。何時に迎え行っていい?]
キョウちゃんからのメールに気付き、急いで返信した。
[1時間後には出れるよ!今日はシチューです♪]
今から帰宅して、シャワーや化粧をしてもそのくらいで出られるだろう。
窓の外には、散ってしまったモミジが山ほど溜まっている。
カフェラテを飲み干し、ストールを首に巻いて店をあとにした。