メランコリック・ウォール
第31章 遠くに
「んまい。ありがとな。うん…うまい!」
「えへへっ…良かった。本当はね、ポットパイ作りたかったの。」
「ポットパイ?」
「うん。…シチューを器に入れて、パイでフタをして焼いてあるやつ。」
「へえ、そんなんがあるのか。んじゃ、来年は作ってよ、俺のとこで」
来年の話を当たり前のようにするキョウちゃんに、私は内心驚いた。
「うんっ…!」
どうってことない話をするように、すんなりと未来の話をする。
目の前に立ちはだかる問題たちを忘れてしまいそうになる。
…
「うあぁ…うまかった。ごめん、俺食いすぎた。」
「ううん。嬉しい!えへへっ…」
空っぽになったタッパーを1つ1つ紙袋へしまう。
「明日も仕事か…」
「うん…」
「アキの手料理が、俺だけのものなら良いのにな」
言ってから、彼は少し焦った。
つい漏れてしまった言葉であることが分かる。
”キョウちゃんだけのために作るよ”
そう言えたらいいけれど…。
私が口をつぐむと、彼は弁解するように微笑み、唇を重ねた。
まだ少し湿っている髪からシャンプーの良い香りが漂い、私は目を閉じる…ー
「ちょっと下げていい?」
頷くと、助手席のシートが後ろへと倒れた。
張り出た胸元を大きな手でそっと包まれ、首元に彼の舌が這う。
「ん…っ」
時折吸い付くその力加減が絶妙で、ああ、この人は私の感じるやり方を熟知している…どんどん溺れて、もう抜け出せない…
セーターをゆっくりたくし上げられ、あらわになったブラジャーが少しずらされた。
ぬるりと熱い舌が乳房を喰む。
「あっ…んぁ…はぁ…」
車の中でこんな事するなんて、初めて…恥ずかしい…その恥ずかしさとは裏腹に、秘部はじんわりと熱くなっていく。
彼の手が太ももを撫でたところで、重なっていた唇が離れた。
「…はぁっ……」
「…やばい、止まらなくなる。さすがにここでアキを裸には出来ないな。」
クスッと笑って私のセーターを直す彼は、そうして私にまた軽くキスをした。