メランコリック・ウォール
第31章 遠くに
「そうだ、これ…」
持ってきたプレゼントを差し出すと、キョウちゃんは驚いた顔をした。
「…えっ?」
「なにが良いか分からなくって、趣味に合うかどうか…」
「マジで?ありがとうっ!開けていい?」
それから彼はブランドのロゴを見て「高かっただろ?」と心配し、包装を丁寧に開けた。
2足の靴下が入った箱が出てくると、声をあげて嬉しそうに眺め、私を抱きしめた。
「アキからもらう靴下なんて、もったいなくて使えねえかも(笑)」
「…ふふふっ!あはは!ゆりちゃんが言ってたとおりだ~(笑)」
私たちはしばらく笑い合い、彼は何度も靴下を眺めて喜んだ。
…
「あれから、家はどう?大丈夫?」
「う…ん。話してないから」
「…そっか」
「キョウちゃんは平気?あの人、現場でつらく当たったりしてない?」
「んー、全然。というか完全無視。思いっきりやり合えたほうがまだ楽だよ、ははっ」
「そう……」
「アキは気にすんな。」
「ん…あの人の声を聞くだけで気分が悪くなっちゃう。あっちも、私の顔見たくないだろうと思うしね」
「ん…。じゃあさ…」
「うん…?」
「ちょっと遠くに行っちゃおうか。」
「遠く?」
「そう。」
キョウちゃんはダッシュボードから細長い封筒を取り出した。
「正月にさ、九州帰るから。…一緒に行かない?」
ぺらっと封筒をひらくと、中には飛行機のチケットが2枚入っている。
「え…私も一緒に?」
「うん。…受け取ってくれるか?」
私は何度もチケットと彼の顔を交互に見、嬉しくて口元を押さえた。
「行きたい…っ」
「ふふっ。良かった。…でもさ、アキが1週間も家あけれるか、って問題があるんだよな。」
「何とかする。大丈夫」
行かないわけにはいかない。
どうしてもこの機会を逃したくない。
自宅から逃げ出したい私には朗報だった。
その上、彼の故郷が見られるなんて、なんて素敵だろう。