メランコリック・ウォール
第31章 遠くに
12月29日の仕事終わり、全員が事務所に集まると「今年一年おつかれさんでした」という義父からの挨拶があった。
やっとこの日が来た、と全員が安堵の表情を浮かべた。
忙しかった年末の仕事が無事に終わり、明日からはみんな正月休みに入る。
ほんの数分、”お疲れ様””よいお年を”と声を掛け合い、やがてそれぞれが帰路についていった。
連絡する、と目で合図し、キョウちゃんも出ていく。
「アキさん、お疲れさまでしたっ♪あっという間ですねぇ1年…」
「ほんとだね。今年も大変だったけど、ゆりちゃんも本当にお疲れ様。…あっ」
「どうしたんですか?」
「あのね、ちょっと…」
見送りついでに事務所の外まで出てから、小声で言った。
「今年の初詣ね、ちょっと…遅くなってもいいかな?」
「えぇ、それは全然。」
「5日は過ぎちゃいそうなんだけど…」
「…なにかあったんですか??」
「ちょっと、旅行に…えへへ」
「うわぁお。なるほど♪全然大丈夫です!1月中ならいつ行ったって初詣ですよね?(笑)楽しみにしてます、旅の話も♪」
誰とどこへ行くのか、ゆりちゃんはひとつも聞かなかった。
きっと、相手がキョウちゃんであることは察知しているだろう。
軽やかな足取りで帰っていく彼女を見送り、私は自室へと戻る。
キャリーケースにしまったチケットをもう一度確認し、”KMI”という文字を見つめる。
私は明日、キョウちゃんと…あの森山キョウヘイと一緒に、彼の故郷へ発つ。
なんだかもう、どこまでがグレーゾーンで、どこからが危険地帯なのか分からない。
れっきとした大人なのに、こんな事をしていて良いのだろうか。
…いや、良いはずはない。
だけどどうか…この旅を、お許し下さい…ーーー
私は神様かなにかにすがる気持ちで祈った。
[明日、9時に迎えに行く。楽しもうな]
彼からのメールを受け取り、遠足前の子供のような気持ちで眠りについた。