メランコリック・ウォール
第32章 離陸
桜子ちゃんがバチバチと火花の散りそうな視線で私を見ているのが分かる。
でも、それで良い。
私はこれから…旅立つのだから。
「オサムさんに相手にされないから、一人旅ですか?ふふっ、アキさん可哀相。」
あなたの大好きだった森山さんと一緒に、九州へ…彼の故郷へ行くのよと、言ってしまいたくなる。
だけど駄目。耐えなくては。
ふわっと振り返り、私はまたにっこりと笑った。
「…あいにくだけど私、あの人に相手にしてほしいなんて、思ったことがないの。だから桜子ちゃんにあげるって、言ったでしょう?それじゃあ、ね。」
ヒールを鳴らしながら、コロコロとキャリーケースを引く。
私はなんだかもう完全に吹っ切れているようだった。
あの家の事など、心底どうでも良くなってしまった。
…
コンビニの駐車場に着くと、気付いたキョウちゃんが駆け寄ってきてキャリーケースを持ってくれる。
「おはよ…。アキ、今日はなんか雰囲気ちがうな?」
「おはよう。へへっ…そう?髪型がコレだからかな?」
「それもあるけど…なんか、良い顔してるよ。」
後部座席に荷物を積み込み、車は走り出した…ーー
家を出てすぐ桜子ちゃんに出くわし、どんな会話をしたかをキョウちゃんは相槌を打って聞いていた。
「…ーそれだけ言って、歩き出しちゃった。」
「…ははっ!アキ、よく言ったな(笑)清々しいよ。…ははは!」
彼は何度か笑った。私も可笑しくなってきた。
「…ふふ、…あはは!」
車で1時間と少し走ると、空港に到着した。
キャリーケースからチケットを取り出し、2人そろってエントランスへ入る。
「国内便はあっちだな。」
「うん!…空港なんていつぶりかなぁ。ワクワクしちゃう。」
九州行きの窓口でチケットを見せ、ゲートをくぐる。
免税店を通り過ぎる時、「なんか要る?」と彼は言った。
「お父様にお土産買っていきたいな。何が良いんだろう…」
「親父は、甘いものが好きなんだよな(笑)」