メランコリック・ウォール
第33章 過去を
相変わらず外を眺める私の腰を、キョウちゃんが引き寄せた。
「キスしていい?」
「…どうして聞くの?」
「なんとなく(笑)」
キョウちゃんは、断りもなく私にキスが出来る唯一の男なのだ。確認されずとも、私はいつだって彼のすべてを待っている…ーー
唇同士が優しく触れ、やがてぺろっと舐められる。
どちらからともなく深く舌を絡ませ、和室に少しの音が響いた。
「1週間も一緒に居れる。」
嬉々とした声で彼が言った。
「うん。嬉しい…」
ブゥーン、と車の音がして、窓の外を見るとベージュ色の車が停まった。
「あ、マサエさん来た」
キョウちゃんはこちらが見えないように障子を閉め、私の手を引いた。
「マサエさん?」
「前に言った、親父の彼女(笑)」
連れられてきたのはまた違う和室で、そこには立派なお仏壇があった。
「母親の。アキ、一緒に線香やってくれるか?」
「うん、もちろん…。」
私なんかが…、という言葉は飲み込んだ。
彼が望むなら、そして彼のお母様なら、きちんと挨拶すべきだと思った。
りんを鳴らし、2人そろって両手を合わせる。
心に染み渡るようなりんの音と、お線香の匂いに包まれた。
合わせた両手を解いて目を見合わせたとき、廊下でドタバタと人の足音がした。
「キョウヘイくーーん?!彼女連れてきたってェ?!」
元気な女性の声が響き渡る。
キョウちゃんはプっと笑った。
ガラッと戸が開き、そこにはパーマ頭のおばさんが立っていた。
「あらあらあら~~。あらまぁ~!」
マサエさんは私に寄り、物珍しそうに目を見開いてニコニコと笑っている。
「あの…初めまして。」
「アキちゃんって言ったかしら?」
「はい。」
「私ね、マサエ。なあにキョウヘイくん、こんな可愛い子、今まで隠してたのぉ?!まったくもう~~」
嬉しそうにキョウちゃんをバシッと叩き、ぐいっと私の腕を引いた。