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メランコリック・ウォール

第33章 過去を


「今晩ね、お寿司にしよっか?アキちゃん、お寿司好き?」

「あっ、はい。大好きです。」


ぐいぐいと引っ張られ、やがてお父様のいる居間へ到着した。


「あんまり騒ぐなよ。若いもん同士、ほっといたれ。」

「なあによ~良いじゃない、こんな時くらい。ねぇ?アキちゃん」

「はい、うふふ」


「この人やかましいからな、鬱陶しかったら、ハッキリ言いなさいな。」

その一言と表情で、お父様はマサエさんの明るいところが大好きなんだと悟った。


「んま。あんなこと言って。ささ、アキちゃん。一緒にお買い物行かない?」

「はい、是非」


キョウちゃんは苦笑していた。


「キョウヘイくん、来て早々だけどちょっとアキちゃん借りるわね。今年はお節を頼んだのよ、明日はそれも取りに行かなきゃならないし…えーっと」


マサエさんはパタパタと忙しく動き回り、お節の注文書やら財布やらをかき集めている。


さっきまでの、とても静かだったこの家が別の空間に変わったみたいだった。


なるほど、この人がいれば家庭という名の舟が沈むことはないだろうな…。

初対面なのに、そう思わせる魅力があった。


「男二人は待っててちょうだいね。んもう、男の人ってせっかちじゃない?ゆっくり買い物もできないわよねぇ、ふふふ」

言いながら玄関に向かい、振り返ると”男二人”は片手を上げて見送っていた。


ベージュ色の軽自動車の助手席に乗り込み、車は発進した。


「本当よう来たねぇ。いつもキョウヘイくんの帰りをね、あの人とふたりで楽しみにしてるのよぅ。そしたら彼女連れてくるんだもの!あ~、おばさん嬉しいワ!」


「あはは…すみません、言ってくれてると思っていて。突然になっちゃって」

「いいのいいの!楽しくなるワァ。ほら、あの2人ってなんだかおとなしいじゃない?キョウヘイくんも女っ気がなかったし。」


「居させてもらう間は、なんでもお手伝いします。」

「あらぁ良いのよ。ゆっくりしてちょうだい。…って言いながら連れ回しちゃうけどごめんね、ふふっ」


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