メランコリック・ウォール
第33章 過去を
「アキは家庭的なんだぜ?料理もすっげえうまい」
「ほう?」
「いいえ、そんな…っ」
それから4人で酒を酌み交わし、夜が更けていった。
マサエさんが”息子が巣立ってしまった者同士、仲良くしましょうね”とほろ酔いで言い、それに応えるように目を合わせたお父様の光景がとても素敵だった。
そして私が既婚者であるということは、とても言える雰囲気ではなかった。
…
最後でいいという私たちをあとに、お父様もマサエさんもお風呂を済ませてきた。
「アキ、先入れよ。こっち」
「あっ…うん、…お風呂いただきます」
ぺこりと頭を下げ、キョウちゃんについていく。
私たちの寝る部屋とは逆方向の廊下を進むと、広い脱衣所が見えた。
「タオルこれ…最初すげえ冷たい水出てくるから、シャワー出しとくな」
「ありがとう」
「…俺も一緒に入ろっかな?」
彼は意地悪に笑った。
「だ、だめっ…」
「へへっ。分かったよ。じゃあ、あとでな」
立派な石風呂にゆったり浸かり、遠くに来たんだな…と感じる。
今頃、オサムや義父はどうしているだろうか。
ううん、今は忘れよう…ーー。
お風呂から上がると、お父様はもう床についたようだった。
マサエさんは台所で水を一杯ゴクゴクと飲んでいる。
「明日のお昼頃ね、一緒にお節取りに行きましょう。いいかしら?」
「もちろんです。」
就寝の挨拶を交わし、私はキョウちゃんの待つ和室へ向かった。
寒い廊下からガラッと戸をあけると、そこはほわりと温まっている。
「出ました。ありがとう」
「お、じゃあ俺も入ってくるわ。」
彼が行ってしまうと、私はキャリーケースの中から化粧水やクリームを取り出して顔に塗った。
古いブラウン管テレビの画面には、和室にたたずむ私の姿が映っている。
時折吹く風で、窓がカタカタと鳴る。