メランコリック・ウォール
第33章 過去を
「アキ、ドライヤーしないと風邪引くぞ」
ガラッと戸が開き、キョウちゃんが入ってきた。
「あっ…うん、でもなんだかほかほか暖かくて。気持ちいい…。」
「顔赤いな。暖房効きすぎたか」
「ううん、平気だよう」
彼は手の甲で私の頬に触れ、あつ…、とつぶやいて少し笑った。
実際、ぽかぽかと芯があたたまった上の暖房で、汗をかきそうなくらい体は熱かった。
目の前にあぐらをかいて座ったキョウちゃんは、私の服の裾を持ち上げる。
「…?」
されるがままに両手を上げると、スポッ…とトレーナーを脱がされた。
「これで少しは良いだろ。」
キャミソール姿になった私は、自分がノーブラだということを思いだし、とっさに背中を丸めた。
「恥ずかしい…っ」
「ふふ。おいで」
彼の両腕に促され、正面からぎゅっと抱き締めあった。
「アキ、ありがとな。マサエさん喜んでたよ。娘が出来たみたいだって。ふふ」
「ううん、私は何も…。すごく楽しかったよ」
少しの沈黙のあと、彼はパチリと電気を消した。
廊下の照明が少しだけ入る中、共に布団へ潜り込んだ。
「キョウちゃん。」
「ん?」
「今まで…彼女とか、連れてきたことないの?」
「ない。」
「一度も?昔にも…?」
「うん、無い。なんで?」
「マサエさんがね、キョウちゃんは女っ気が無いって」
「ははっ。まぁそうだけどさ(笑)」
言いながら、腕枕をしてくれる。
すっかり馴染んだ彼の腕を、私もすんなりと受け入れた。
脇腹に置かれた彼の手が熱い…ーー
すうっと丘を上がってくると、優しく乳房を掴まれた。
「ぁ…ー」
小さく息が漏れ、キャミソール越しの摩擦で脳みそが溶けていく。
「アキはさ…」
「ん、ぅん…っ」
「今まで何人とこういう事したの?」
彼の指先が、私の乳首をそっと弾いた。
「あっ…ん…っそんな…に、多くはないけど…」
「あれ、俺だけじゃないの?」
その指は先端をキュッと摘んだ。
「んっ…やぁ…キョウちゃん、だけ…だよぉ…はぁ…っ」
「俺もアキしか知らない。知りたくない。」
ーーー過去を捨てた。
過去など要らない。
キョウちゃんだけを知り、彼は私だけを知っていれば、他には何も必要ない…ーーー