メランコリック・ウォール
第5章 不純と不信
「今日、早かったから…疲れたんだね」
「アキさんは少し寝たもんね」
森山さんがいじわるな笑顔で言う。
私は昼間の出来事を鮮明に思い出し、脈が上がった。
「なっ…ちょっと…っ」
とっさに”シーッ”と手で合図するが、彼はまだ笑っていた。
「森山さん、今日ですごくイメージ変わった。」
「どういうふうに?」
「んー…意外と笑うし、ちょっといじわる」
「ふふっ。」
「…ちょっと優しいし」
「ちょっとって(笑)俺は優しいよ。」
「自分で言う?!」
「好き嫌いがハッキリしてるから嫌いなヤツには優しく出来ないけど」
「…そりゃ、そうか。」
「うん」
途切れた会話にドギマギして、ついお酒が進む。
もうそろそろお開きにしないと、私も限界が近い…。
重くなってきたまぶたをなんとかひらき、森山さんを見た。
「顔赤いし、目が座ってる。そろそろ行く?」
彼がお店の会計を済ませると、私はゆりちゃんを起こしにかかった。
「ゆりちゃ~ん。お~い」
「うぅうぅ~~ん…眠い~~…」
すっかりお酒と疲れで潰れてしまった。
仕方ないので森山さんとふたり、ゆりちゃんを肩で担いで店を出る。
「森山さん、タクシーつかまえないと」
「いや、送るよ。1人じゃ無理でしょ、これ」
「あ…ありがとう」
「ふふっ。俺、”ちょっと優しい”からね」
「んもぅ!根に持ってる?」
2人でクスクスと笑った。
今日1日で、ずいぶん森山さんと仲良くなれた気がする。
これからの仕事も楽しくなりそうだ。
嬉しいな…。
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ウォール・シイナに着き、カラカラと戸を開ける。
奥の居間では、晩酌していた3人がテレビも付けっぱなしで雑魚寝していた。
「…ものすげえイビキだな(笑)」
森山さんが言うと、こらえていた私も笑ってしまった。