メランコリック・ウォール
第5章 不純と不信
ゆりちゃんを担いでなんとか階段を上がり、一番奥が私の部屋だ。
「まさかこんな事になると思わなくて…部屋きたなくて恥ずかしいな」
小声で言うと、森山さんはクスリと鼻をならした。
「大丈夫。俺の部屋より絶対マシ」
部屋に入り、ゆりちゃんを私のベッドに寝かせる。
「ふぅ…森山さん、ほんとにありがとう。助かりました」
「いや、全然。…それじゃ、俺行くわ」
「あ、お見送りする」
2人で階段を降り、外へ出た。
「あっちの大きい通りに出ないとタクシー来ないから。行こう」
「ここでいいよ。アキさん酔ってるし。」
「そんなわけにいかないよ~、すぐそこだし大丈夫」
歩き出したその瞬間、ふわりと地面が浮いたように感じた。
ふらついた私を支えようと、とっさに森山さんが手を伸ばす。
「あっ……ー」
なんとか転ばずに済んだけれど…右手は、森山さんと繋がれている。
「あっつ。アキさん、熱あんの?」
「ご、ごごめんっ、なんかふらっと…」
「だからここでいいって。危ないから。」
「でも…」
繋がれている右手は、ひんやりとした森山さんの手にしっかりと包まれている。
「じゃあ、あそこの自販機まで…ね?送らせて」
「……ほんとにちゃんと帰れる?」
「うん!大丈夫!」
手は繋がれたままだった。
彼は私が転ばないか注意しながら、ゆっくり歩いた。
「森山さん…手、つめたいね」
森山さんと手をつないで歩いているなんておかしな状況を分かっていても、なんだか離したくなかった。
「アキさんが熱すぎるんだよ。飲むといつもこう?」
「うん…昔からなの。ほっぺ赤くなって、体あつくなる」
「へぇ。確かに今日はずっと赤い。」
彼はもう片方の手で私の頬に触れ、「あつっ」と笑った。
なんだろう、今日は…起きたことがすべて夢だったようにも感じてくる。
「わぁ、ひんやり~。きもちいい」
シラフでは絶対に言えないような言葉が、お酒の力で飛び出た。
よし、と森山さんは繋いでいた手を離し、両手で私の顔を包み込むーーーーー…