メランコリック・ウォール
第34章 大晦日
マサエさんが皿洗いをしている流しへ食器を運び、台拭きでテーブルを拭く。
「ありがとな。」
キョウちゃんが言うと、新聞を読んでいたお父様も私を見た。
「よう働くわ。お前、大事にせんといかんよ、ふふふ」
仕事という仕事はしていないのに、こうして持ち上げてくれるお父様の気持ちを感じて嬉しい。
「してるよ、してるつもり(笑)」
彼は優しく笑った。
ーーお父様は、私が人妻だと知ったらどんな顔をするだろう…。どんよりと額のあたりが曇る。
…
午前中はマサエさんの手伝いで家中に掃除機をかけ、昼になるとお節を取りに行くため助手席に乗り込んだ。
「疲れたでしょう?今日は年越しだから、お昼食べたら少し寝ようかねぇ」
13時過ぎ、4人そろっておにぎりを食べながら年末のテレビ番組を見た。
台所には、お正月のためのお蕎麦やお餅、たくさんの食材が用意されている。
朝から何かとバタバタ動き回っていた私とマサエさんは、お昼を食べ終わるとそのまま和室でこっくりこっくりと始めた。
キョウちゃんが私に目配せし、あぐらをかいている膝をぽんと叩いて促した。
キョウちゃんの膝を枕にして、崩れ落ちるように眠ってしまった。
…
髪を撫でる、優しい感触でぼんやりと目を覚ます。
ハッとしてすぐに起き上がると、お父様の姿はない。
マサエさんはまだすやすやと眠っていた。
「たくさん寝ちゃった…」
「ふふ」
「足、痛くない?」
「全然平気」
小声で話していると、縁側の向こうの庭からチョキチョキと音が聞こえた。
目をやるとお父様が植木の世話をしている。
「うち、造園屋だったからさ。今でもこの家の庭は誰にも手出しさせないんだよ(笑)」
片足を引きずりながらも、お父様は慣れた様子で手際よく剪定していく。
「そうだったんだ…。すごいね、職人さんの手つきだ」
お父様に、いつ本当のことを打ち明けるのか…気になりつつも、彼のタイミングを待つことにした。