メランコリック・ウォール
第34章 大晦日
日もすっかり落ち、お父様がとっておきのために買っておいたと言う大吟醸の一升瓶を得意げな顔で持ってくると、私たち3人はわぁっと盛り上がった。
台所からは、年越しそばのためにマサエさんが時間をかけて作ったダシ汁の香りが漂っている。
ほわほわと暖められた和室で、何とも幸せな大晦日を過ごす。
テレビに映るお笑い芸人たちに「この人おもしろいわねぇ」「こりゃあ、外人みてえな顔だな」などと、他愛のない言葉と共にゆったりと時間が流れていく。
いつもこうして大晦日やお正月を地元で過ごすと言うキョウちゃんは、随所で私に優しく微笑みかけた。
「初詣とかも行くの?」
「うん。いつもおんなじとこ。一緒に行くだろ?」
「うんっ…!」
出会って10ヶ月。
初めてのキスからは、半年が経った。
まさかこうして彼の家族と年末の時間を共にするなんて、本当に夢みたいだ…。
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バラエティ番組を見ながら皆でカウントダウンをし、「明けましておめでとうございます」と画面にでかでかと表示された。
「はい、新年明けました~!今年は…アキちゃんも、よろしくね。」
マサエさんはそう言いながら、皆に清酒を注いだ。
「こちらこそ…っ、よろしくお願い致します。」
私が正座をして深々と頭を下げると、お父様も会釈をした。
「こんな息子だけんど、よろしゅう頼みます。」
それから1時間ほど語らい、やがてお父様は上機嫌な姿を見せたあと寝室へ去っていった。
すぐに世話をしにマサエさんも去り、キョウちゃんと2人で宴の後片付けをした。
「初日の出、見る?」
「うんっ!」
「んじゃ、6時に出よう。」
…
3時間ほど仮眠をとって、お風呂を済ませる。
メイクが済むと、ちょうど6時だ。
「行ってらっしゃい!」
マサエさんに見送られ、私たちは車に乗り込んだ。
15分ほど走った先の海沿いでは、多くの人たちが防潮堤に立ち、朝日を待っている。
車を降りて私たちも防潮堤へのぼり、海の向こうを見渡した。