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メランコリック・ウォール

第35章 彼の地元


「よう!森山っ!」


少し離れたところから呼びかけられ、キョウちゃんも私もそちらへ目を向けた。


ひょろっとした男の人は、子供を抱いている。


「おお、山岸!久しぶり。」

「帰ってきてたんだな!連絡しろよ(笑)」


「ははっ、ごめん。…一緒に来たから。」

キョウちゃんが私を見る。


「マジで…?!彼女?!」

「うん。」


お友達の山岸さんは目も口も見開いて驚いている。


「初めまして」

「ど、ドウモ…!!」


私が独身だったなら、友達に紹介される事がとっても嬉しかっただろうな…。

なんだか、どんな顔で居たらいいのか分からない。


「ココナ、大きくなったな~。嫁さんは?」

「今、つわりで死んでる…」


「マジ?二人目できたんだ?おめでとう!」

「あざーっす(笑)パパ頑張っちゃう!」


そうこうしていると、煌々と輝く朝日が頭を出した。


多くの人がスマホで写真を撮る中、私とキョウちゃんは黙ってそれを見つめていた。


そっと腰を抱き寄せられ、私も首を曲げて彼に寄り添う。



「アキ。」


「うん」


「今年も色々ありそうだけど…俺から離れるなよ。」


キョウちゃんは低い声で、私にだけ聞こえるように言った。



「うん。離れない…。」

「よろしい。」

「ふふっ…」


朝日はすっかり全貌を現し、人々を照らした。


それぞれに複雑な事情もあるかもしれないが、今だけはすべての人が希望に満ちているように見える。


朝日を見つめる彼の横顔を、私は一生忘れないだろう。



「それじゃ、俺行くわ。彼女さん、ゆっくり九州楽しんでって下さい!」


ぺこっと頭を下げると山岸さんは帰って行った。


「あいつね、歩くスピーカー(笑)」

「えぇ?」


「明日にはツレらみんなに知れ渡るだろうな。」

「…大丈夫?」


「俺は全然。アキは嫌なの?」

「そうじゃないけど…私…」


人妻だから。
その一言が言えない…。


「俺のこと好きって言ったよね?」

「うん…好き。」


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