メランコリック・ウォール
第35章 彼の地元
「うん…。私がキョウちゃんに買いたい!」
「俺、そんな危険運転か…?」
「あははっ、そうじゃないけどね、お守りだから。仕事とか、安全に終えて帰ってくるように…。ね?」
「ん。じゃあお言葉に甘えて」
亀のお守りを買うと、また参道を戻っていく。
「なに食う?」
「んーっと、…チュロス(笑)」
「そうなるよな(笑)」
ココア味のチュロスを買ってもらうと、2人で分け合いながら歩いた。
「イカ焼きはいいのか?」
結局、イカ焼きもりんご飴もフライドポテトも買い込み、いくつもビニール袋をぶら下げて参道をゆっくり戻った。
ーー「あれっ!森山くんじゃない?!」
声が聞こえ、振り返ると2人の女性が驚いた顔で私たちを見ている。
「ああ…久しぶり。」
「帰ってきてたんだぁ!もしかして…彼女?!」
「うん。」
手を握りあったまま、私はぺこりと会釈をした。
ぎゅっと私を包むあたたかな手とは裏腹に、キョウちゃんの表情はクールだった。出会った頃のような…。
「あっ…ごめんね、お邪魔しちゃって。それじゃ…!」
「うん、じゃあ」
ふたたび出口に向かって歩き始める。
「ねぇ、すっごい美人…」
「ね…!」
後ろからひそひそとそんな声が聞こえ、私は思わず赤面した。
「ふふっ」
キョウちゃんは得意げに微笑み、握った手に力を込めた。
「お友達?」
「うん、高校の同級生。あんま喋ったこと無いけど。」
…
森山家に帰り、数時間の仮眠を取った。
マサエさんのスリッパの音で目が覚めると、キョウちゃんもゆっくりと瞼をひらいた。
外は曇り空らしく、部屋は薄暗いままだ。
「ん…。さむっ」
暖房をつけないまま眠ってしまった。
キョウちゃんは私を抱き寄せ、するすると背中を撫でてあたためる仕草をする。
「冷えたし、風呂入ろっか」
「うんっ」
2人で脱衣所に行き、キョウちゃんがタオルを用意してくれる。