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メランコリック・ウォール

第36章 生きたいように


「黒糖を使うと美味しいんよぉ」

「粉末の黒糖って、初めて見ました!」


「そっちじゃ、売ってないんかいね?」

「見かけないですねぇ…あっても、塊で」

「あぁ、そうかぁ」





他愛もない会話をしながらおやつ作りは進み、油の鍋に丸いかたまりがいくつもプカプカと浮いている。


ジュワジュワと心地よい音を立て、ひとつ…またひとつと皿に上げられていく。


「うわあ…良い匂い。おいしそう」


私とマサエさんは、エプロン姿で台所に立ったままサーターアンダギーをひとつ頬張った。


「うん、美味しくできてるわ」

「はい!すっごく美味しい~…っ」


あつあつのおやつをモフモフと口に詰め込みながら笑い合ったとき、玄関の戸が開く音がした。


ドキリと心臓が飛び跳ね、私は急いで口の中のサーターアンダギーを飲み込もうとした。


「アキちゃん、そんなに急いで食べたら喉につまるわよぉ~アハハ!」

「で、でも…っ」


結局間に合わず、私とマサエさんは粉がついたエプロン姿にほっぺを大きく膨らませた状態で2人を迎えた。


「なんじゃあ、2人して粉まみれで。なにしとる、はっはっは」


お父様は何だかご機嫌な様子だった。


もしかして、私が既婚者だということを伝えていないのかな……。


隣ではキョウちゃんもククッと笑っていて、私は状況が把握できないままサーターアンダギーをごくりと飲み込んだ。


「お…おかえりなさい!」


2人は和室に腰をおろし、私はそこへサーターアンダギーの皿を運んだ。


「小腹がすいちゃってね、アキちゃんと作ったの。ちょ~うど、出来たてよぉ!」


お父様もキョウちゃんも、そしてマサエさんもそれを手にとって口に含んだ。


うまいうまいと減っていき、特に変わった様子もなく時が流れる。


お父様に何を伝えたのか、今すぐにでも聞きたい…。


けれど、キョウちゃんと2人になる機会がなかなか無い。


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