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メランコリック・ウォール

第36章 生きたいように


お父様がお風呂から上がり、マサエさんも大きなオードブルを持って帰ってきた。


その夜も楽しい雰囲気でお酒を飲み、テレビで流れる昔の歌謡曲を皆で口ずさんだ。


気まずさが完全に消えたわけではないけれど、お父様の少しぶっきらぼうな優しさに心が温まる。

明るくひょうきんなマサエさんに背中を押される。


私がこの人たちの家族になるなんて事は恐れ多くて望めないけれど、今だけでもこの輪に自分がいることがとても幸せに思えた。



「お前さん、歌は好きかね」

大吟醸でご機嫌なお父様が言う。


「はい。祖母は日本舞踊の師範で、祖父が演歌の教室を開いていました。」

「ほほう?」


「小さい頃から演歌を聞かされて育ったので、馴染み深いです。」

「それはそれは。ご立派なお家に育ったんだなぁ。どうりで、こいつが連れてくるにしちゃあ出来すぎくらいのお嬢さんだ」


笑いながら日本酒をあおるお父様に、キョウちゃんは「おい(笑)」とツッコミを入れ、マサエさんも大笑いした。







「キョウちゃん」

「ん?」


「私、今ね…。すっごく幸せ。本当にありがとう…」

「ふふっ。いきなりどうしたんだよ。」

「ううん…。」


寝る前、ぼんやりする意識の中でそんな会話をした。


長い元日が終わった…ーー。







翌朝、早くにアラームが鳴って目が覚めた。


「んん…もう起きる?」

眠そうな目でキョウちゃんが私を抱き寄せる。


「うん…マサエさんと市場に行くから。起きなきゃ」

「そっか…。んー、じゃ、少しだけ…」


腕の中に包まれ、髪を優しく撫でられる。


「毎日アキと一緒だったらな……ーー」


夢うつつなキョウちゃんがポツリと言葉を吐いて、まもなく寝息を立てた。


起こさないようにそっと布団から出ると、着替えを済ませて部屋を出た。


しんと冷え切った廊下を静かに歩いていくと、居間ではマサエさんが今朝の新聞チラシを見ていた。


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