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メランコリック・ウォール

第37章 小さな果樹園で


「あら、アキちゃんおはよう!寒いわねぇ今日も。」

「おはようございます!ごめんなさい、起きるの遅かったかな…」

「ぜ~んぜん!大丈夫よう!さ、支度しましょうかね。冷えるから暖かくしてね」


助手席に乗り込み、やがて到着したのは海沿いの市場。


広々とコンクリートの地面が伸び、発泡スチロールや生け簀には新鮮な魚介類が並んでいる。


「すごぉい…!ワクワクしちゃいます」

「ふふふ、私も朝市は久しぶりだわぁ。ほら、あの人と2人だとそんなにご馳走つくる機会もないでしょう?アキちゃんたち来てくれて嬉しいワァ」


それからもマサエさんは節々で”来てくれて嬉しい”、”また絶対来てね”、などと口にした。

お父様にはなにも聞いてないのかもしれない…。


ごんぐり煮という料理に使うマグロの胃袋と、ブリや、オオニベという美味しそうな魚を買った。


さらに市場を進むと今度は生鮮食品が立ち並び、高く積み上げられた野菜たちを見るとなんだか外国に来たかのような気分にもなった。


「この市場は毎日やってるんですか?」

「そうね、お正月はいつもよりこうして量があるけどね、普段もやってるわ」

「うらやましいです。なんでもあるし、とっても安くって」


マサエさんはまた、こっちに来ればいつでも朝市に来れるよと誘った。



ーーー帰りの車内で、私はふたたび考えた。

マサエさんはお父様からなにも聞いていないのだろうか。きっとそうだ…。


拭えない罪悪感からなのか、こうしてマサエさんととっても仲良くなれたからなのか、分からない。

けれど私は言った。


「マサエさん」

「ん?なーに?」


「私…。実は、け…結婚してるんです…っ」


「ああ、聞いた。あの人にね、昨晩寝る前にね」

「えっ…!」


聞いていたのにこうして一緒に過ごしてくれる事が信じられず、私は混乱した。



「…事情は分かんないけどねぇ、人はみんな色々あるわ。それでアキちゃん、暮らしは大丈夫なん?」


「暮らし…?」


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