メランコリック・ウォール
第37章 小さな果樹園で
「ご主人と、そのお義父さんと住んでるんでしょう?」
「あ、はい。そうです」
「肩身の狭い思いしとらんかなーとか、心配になっちゃうワァ。余計なお世話だかもしれんけどねえ?」
「いえ、そんな。」
「あんまり我慢はしちゃあいけんよ。良いことない、絶対にね」
「……」
思わず黙り込む私を見て、マサエさんは私の肩をバシバシと叩いた。
「だぁいじょうぶって!ね!キョウヘイくんのこと想ってるんでしょう?」
「はい。」
私はしっかりと頷いた。
「私もほら、昔離婚したしね、色々あったワァ。人生は長い。そんなちっちゃい視点で見ちゃいけん。男に守られるだけじゃなくって、自分で幸せを掴みに行かんと。流されるだけじゃ、それは幸せとは言わんと私は思うのよ」
うんうんと相槌を打ちながら、私はまた彼女に勇気をもらった気がした。
森山家に帰宅すると、お父様は庭で木の剪定をしていた。
「おお。帰ったか。」
「良いオオニベがあったわよう!」
「そうか」
お父様は嬉しそうに微笑んで、片足を引きずりながら剪定道具を片し始める。
縁側ではキョウちゃんが煙草を吸いながら、「おかえり」と和やかに言った。
朝食に、さっき買ってきた明太子でおにぎりを沢山作った。
男たちは居間でテレビを観ながら食べ、私とマサエさんは台所でもぐもぐとつまみながら食材を並べていった。
「アキちゃん、ぶり大根作れる?」
「はい、一応作れます」
「それじゃ、途中までやってくれるかしら?」
「分かりました!」
大根の皮を剥き始めた時、お父様がやってきた。
「ブリか。」
「ぶり大根にするけどね、半分はお刺身に。捌いてちょうだいな」
「おう」
戸棚から出刃包丁を取り出すお父様を見つめていると、マサエさんが笑った。
「魚さばくのは、この人すっごい上手なのよう。だからこれは、この人の担当なの。アッハッハ」
「そうなんですか!」