メランコリック・ウォール
第37章 小さな果樹園で
お父様が手際よくブリを三枚におろし、その半分があっという間にお刺身になっていく。
「わぁ、すごい。職人さんみたい…」
つぶやくと、お父様は照れ笑いするように私を見た。
あと半分は、ぶり大根用に大きめの切り身にしてくれた。
オオニベをまな板にのせ、これも手際よくさばいていく。
「私、このお魚初めて見ました。」
「こりゃあ、多分このへんでしか捕れんと思うよ。うまいんだよ」
「この人、オオニベ大好きなのよ~」
おいしそうなお刺身が盛られたお皿を冷蔵庫に入れると、お父様は居間へ戻っていった。
「すごいですね、お父様の包丁さばき。」
「あはは!この辺の男はねえ、みんなちっちゃい頃から釣りをするでしょう?だから、だいたい出来る人ばかりだと思うワァ。」
茹で上がったゆで卵の殻を剥きながらマサエさんが言った。
「そうなんですか」
「キョウヘイくんだって、出来ると思うわよぉ。」
「えぇっ。知らなかった…!意外ですね(笑)」
それから、いろんなレシピを教わりながら調理は進んだ。
ぶり大根と、ごんぐり煮。
そしてチキン南蛮が出来上がった。
この日の昼食はチキン南蛮になり、キョウちゃんは「久しぶりに食うわ」と嬉しそうに頬張っていた。
食べ終わる頃、お父様にみかんの収獲をしないかと誘われた。
「みかんの木があるんですか?」
「ああ、裏庭にな。狭いけんど」
「裏庭は果物ばっか植わってるんだよ」
キョウちゃんも付け足した。
「わぁ、素敵ですね。是非やらせて下さい!」
私はお父様と共に裏庭へ向かう。
キョウちゃんは電球交換や高い場所の掃除など、普段2人が出来ないようなことをマサエさんに頼まれた。
「わぁ!すごい!」
低めに整えられた木に、あざやかなみかんがいくつもなっている。
「食べきれんから、毎年そこらじゅうに配っとる。こっちはレモン。これももう採れるな」