メランコリック・ウォール
第37章 小さな果樹園で
こぢんまりとした果樹園は、私の胸を踊らせた。
他にも、ブルーベリーや柿やビワの木が並んでいる。
見惚れる私にお父様が笑った。
「果物の木が好きか。」
「はい…実家にも柿の木がありました。」
「そうかい。」
低い脚立にのぼり、ひとつひとつみかんを収獲してはお父様の持つダンボールに入れていく。
これは毎年、お正月に帰省したキョウちゃんが担っていたらしい。
10個ほど収獲した頃、また罪悪感にも似た感情がわいてきた。
お父様とキョウちゃんは話を済ませたかもしれないが、私がお父様に何も言わないのはやっぱり失礼ではないか。
ずうずうしく正月に一緒にやって来て、こんなにお世話になっているのに…。
「ああ、ちょっと傷んでるのもあるか。軍手持ってきてやる」
片足を引きずって世話を焼いてくれるお父様に、これ以上知らん顔は出来ない。
納屋から軍手を持ってきてくれたお父様は、それを私に手渡した。
受け取り、軍手をじっと見つめた。
「……」
「なんだ。どうした」
心配するように言うお父様に、私は切り出した。
「お父様。…ごめんなさい。私、ものすごく図々しくて失礼なことばかり。私…」
「なんだぁ急に。…なあんにも、言わんでいい。お前さんは悪い子じゃない。」
「…っー」
「深くは聞かんけんど。俺ァ、あいつを間違った育て方したとは思っちゃいない。信じてる。」
「は、はい…」
「せがれによりゃあ、お前さんその家族にゃあんまり大事にされておらんような口ぶりだったが。そりゃ本当かね。」
息子が初めて彼女を連れてきたと思ったら、それは人妻だった。
お父様からすればショックだったに違いないし、私のことなど心配している場合ではないはずなのに…。
私はゆっくりと軍手を身に着けながら答えた。
「夫には…大事にされているとは正直思えないです…。でも、だからといって私がキョウヘイさんと恋仲になってもいい理由にはなりません…。本当に…ーー」