メランコリック・ウォール
第37章 小さな果樹園で
「今は、ええ。正月だ。せっかく来たんだから、ゆったりしていきなさいな。」
きっとお父様も、まだ思うところはいくつもあるだろう。
そして私も、今後のことをきちんと考えていかなければならない。
…
ダンボールに大量のみかんと、少しのレモン。
玄関先に置き、お父様はそのいくつかを居間へ持っていった。
作業が終わっていたキョウちゃんが早速それを食べ始めると、マサエさんもやってきた。
「いやあ、助かった助かった。ほら、お前さんも食べなさい」
促され、私もキョウちゃんの隣へ腰をおろした。
夕食はマサエさんと一緒に作った煮物や、お刺身の盛り合わせを皆で食べた。
「こうやって毎日酒飲んでると、体がなまるな(笑)」
キョウちゃんが笑い、「たまにはいいのよう」とマサエさんが言った。
「明日は私たち、朝からいないからねぇ。ご飯は適当に済ませてくれる?台所、自由に使っていいからねぇ」
どうやら明日、2人は隣の県の神社までお参りに行くらしかった。
ここ6年ほど毎年行っているというその神社には、足の神様が祀られているそうで、お父様の足が良くなるようにとマサエさんが誘ったのが始まりだと言う。
…
深夜0時、お風呂も済ませて布団に入る。
「ねぇ、」
「どした?」
「キョウちゃんってお魚さばけるの?」
「ああ~、まぁ、一応な。」
「凄い。マサエさんの言ったとおりだ!」
「あはは。でも料理じゃないぜ?さばくだけ。刺し身と塩焼きくらいなら(笑)」
「見てみたい!釣りはよくするの?」
「地元出てからはしないな。こっち帰ったときくらい。」
「そっかぁ…」
キョウちゃんが魚をさばく姿を想像しながら、ゆっくりと
眠りについた。
…
翌朝、8時頃に起きるとすでに2人は出かけていた。
朝食で昨日の残り物を食べ、しばらくするとキョウちゃんの携帯が鳴った。