メランコリック・ウォール
第38章 朝採れレモン
「ーーもしもし?ああ。…ーー」
縁側で煙草を吸いながら電話に出るキョウちゃんの表情で、お友達かな?と思った。
洗い物をすませて居間に戻る。
「アキ。釣り行く?」
「えっ?」
「こないだ会った山岸がさ、行かないかって。」
「わぁ、私もいいの?」
「うん。っていうかアキが行かないなら俺も行かないし(笑)」
「行きたい!」
「まぁ午後からだから、まだゆっくり出来るよ。…おいで」
腰をおろし、一緒に庭を眺めた。
「釣りって、子供の頃におじいちゃんとしたっきり…」
「そっか。これからはここでいつでも出来る」
「うん…」
「こっち、気に入った?」
「すっごく。海も近いし、市場もワクワクしちゃった!あたたかいし…人も。」
「ふふっ。それは良かった。」
「私ね…お父様に言ったの。やっぱり黙ってるなんて失礼だから…」
「…なんて言ったの?」
「図々しくて、ごめんなさいって…。私の家庭がうまくいってなくても、それがキョウちゃんとこういう関係になっていい理由にはならないって…。」
「いつの間に、そんなこと話してたのか。」
びゅうっと木枯らしが吹き、窓がカタカタと静かに鳴った。
「うん、みかんを収穫した時に」
「へぇ、全然分からなかったな。親父はなんて?」
「今は…何も言わなくていいって。せっかく来たんだから、って」
「ははっ。俺にも同じこと言ってたよ。」
「……。キョウちゃん。私、キョウちゃんといることも…お父様やマサエさんといることも、すごく心地いいの。怖い…。」
「なんで怖い?」
「…望んで、しまいそうで…」
そこまで言うとじわじわと涙がこみあげた。
「欲しいものを素直に望めよ。ずーっと我慢して暮らしてくなんて、俺はさせたくない。」
「ん…」
彼はなぐさめるように優しく口づけをして、そのままそっと押し倒した。
「ーーーー愛してる。」
じっと目を見つめ、大きな手で私の頬をつつみながらキョウちゃんが言った。
「誰よりも。何よりも。」