メランコリック・ウォール
第38章 朝採れレモン
子供は両親が見ているからと言い、1人でやってきた山岸さんはとても親切にしてくれた。
キョウちゃんは自販機までコーヒーを買いに行き、私と山岸さんは堤防から釣り糸を垂らしたまま見送った。
「あいつ、イイ男でしょ。」
ふふっと笑いながら山岸さんが言う。
「う、うん…。とっても。…えへへ」
「好き嫌いハッキリしてるし、クールっぽいから勘違いされやすくてさ。昔はそのへんの不良と喧嘩ばっかしてたよ。」
「えぇ、そうなの…」
「って、こんなこと言ったらあいつに怒られるか(笑)」
「ふふっ。」
「でもね。すんげえ友達思いっていうか、なんて言うのかなぁ。一旦仲間と思った奴のことは、絶対守るみたいなとこある。」
「なんか、分かるかも…」
「でしょっ?それにしてもビックリしたけどね。まさかこんな可愛い人つれて帰ってくるなん…ーー」
「おい、俺のいない間に口説いてんじゃねえよ(笑)」
戻ってきたキョウちゃんが笑う。
「ち、違う、違うって!」
山岸さんはあせった動作をして、私もクスクスと笑った。
キョウちゃんは山岸さんにコーヒーと、私にはホットレモネードを手渡した。
「ありがとう。あぁ、あったかぁい」
そのとき、私の釣り竿がぐんとしなった。
「わっ!どうしよう!?」
「ゆっくり巻いてみ」
「う、うん…っーー」
初めての感触におののきながらも、なんとか釣り上げたのはアジだった。
「すげえじゃん、今日食おう(笑)」
「アキさんやったね!」
結局、3時間以上も釣りをしていた。
小2の頃、ふたりで作った秘密基地がホームレスに乗っ取られた事や、小6でキョウちゃんがジャンケンでに負けて放送委員に入ったけれど一度も参加しないまま卒業した事。
中学に入って山岸さんが先輩に呼び出され、助けに入ったキョウちゃんが勝利してから先輩には何も言われなくなった事。
2人が面白おかしく話すものだから、私は何度も大笑いした。