メランコリック・ウォール
第39章 決断
「すごい…。高かったでしょう?」
「まぁ、正月休みだからね。でもなんか良いだろ?毎日限定7組しか泊まれないっていうの」
「えぇ!贅沢だぁ」
部屋に案内され、仲居さんがアツアツの甘酒と、ぜんざいを運んできた。
「お疲れ様でございました。ご旅行ですか?」
「いえ、帰省で。」
「まぁ!さようでございますか。どうぞごゆるりとお過ごし下さいませ。」
私は甘酒をすすりながら、ずいぶんと立派な宿に来てしまったと身を縮めた。
7つの客室それぞれに内湯と露天風呂がついているようで、内湯の床は畳張りだ。
海に向かって張り出した設計によって、お風呂からは海が一望できる。
「本当に素敵な宿…。」
景色に見とれている私の頭をキョウちゃんがポンと撫でた。
…
私たちは1時間もお風呂に入り、現実離れした部屋を目一杯満喫した。
「明日には、帰らなくちゃいけないなんてなぁ…」
少しいじけるように言うと、キョウちゃんは「まだいっぱい時間あるぞ」と笑った。
18時になると部屋での夕食の準備が始まり、あっという間に豪勢な食卓となった。
地魚の刺身、煮付け。
たくさんの小鉢、すき焼き、蒸し鶏。
すべてが丁寧に盛られ、ひとつひとつ並ぶごとに声をあげた。
「お食事が済みましたら、お電話下さいまし。お片付けに参りますので」
2人の仲居さんが去っていき、私たちは改めて乾杯をした。
大好きな人と、こんなに素敵な宿で、とっても美味しいお魚を食す。
なんて幸せなんだろう。
もうすぐ悪いことでも起こるのではないか…と不安になってしまう。
もったいぶりながらも箸を進め、やがて終わりに近づいてきた。
「片付けてもらって、飲もうか」
「うん!」
すっかり片されたテーブルには、いくつかのおつまみとお酒だけが残った。
仲居さんおすすめのこの地酒は、とろけるほどに美味しい。
「飲み過ぎちゃうね、…えへへ」
「ははっ。じゃあ、あんまり酔っ払う前に…」
「……?」