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メランコリック・ウォール

第39章 決断


キョウちゃんは荷物の中から小さな紙袋を取り出して私に渡した。


「なあに?」

「開けてみて」


破かないよう、丁寧に包装をといた。


「…えっ?これって…!!」


「ふふっ。気に入ってたろ?」


そこには、以前デートした時に私が手にとったパスポートケースが入っていた。


すごく好きなデザインだけれど、使うことがないので諦めたんだ。


「キョウちゃん…っ」

「ふっ。嬉しい?」

「うんっ!…うん!」


私は何度もそれを撫で、開いたり閉じたりして見入った。



「ありがとう。」


「うん。」


「…私、してもらってばっかり。誕生日でもないのに贅沢しすぎて、おかしくなっちゃうよぉ」


クスクスと笑いながら、彼は私を抱き寄せて言った。


「これ、どうやって使う?」

「んん…。カード入れにしようかなぁ。」


海外に行く事がないので、パスポートケースとしては使うことがないだろう。


「これ使う機会、俺に作らせてほしいんだけど。」


「え?」


「もうちょっと先な。その前に…」


海外に行こうという意味なのか否か、分からないうちにキョウちゃんは真剣なトーンで話を始めた。


「明日、帰るだろ。」


「うん…」


「その後、俺達のことちゃんと親方に話したい。アキはどう思う?」


「親方に?」


「うん。場合によってはオサムさんとあの子の関係も話さないといけない事にはなるけど…。だけど俺、このままの関係なんてやっぱり嫌なんだよ。」


「それは、私も…」


「これから先、オサムさんと別れる気があるなら。アキが1人で訴えても無理だと思う」


…きっとそのとおりだろう。


自分はよくて、私には駄目だと言う夫が、すんなり別れに応じるとは思えない。


「…うん。きっと別れてくれない。」


キョウちゃんは煙草に火をつけた。


しばらくの沈黙の後で、ゆっくり話し始める。



「アキの今の暮らしを壊すことになる。それでもいいか?」


「私は、むしろ…。抜け出したい…。でもそれよりも、私こそキョウちゃんの暮らしをグチャグチャにしちゃう事になる」


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