メランコリック・ウォール
第39章 決断
「俺のことは良い。」
まっすぐに伸びる視線が私の瞳を掴む。
「帰ったら、まずは親方に話をしよう。」
約束し、静かに夜は更けていった。
時間の経過と共に、この約束が私の中へジワジワと浸透する。
オサムと別れ、あの家を出る。
”独身の自分”として、キョウちゃんと付き合える。
今までなんとなく過ごしてきた人生が変わる。
…いや、変えるんだ。
不謹慎でも、キョウちゃんの申し出は私にとって希望の光だった。
…
つい飲みすぎて、布団にも入らず眠ってしまった。
翌朝目を覚まし、2人で笑い合う。
「せっかくこんな良い宿に泊まったのに、なにしてるんだろう私~…」
「あはは!いいじゃん、これも思い出だ(笑)」
朝食をとり、ゆったりと朝風呂に浸かる。
この海のずーっと向こうに、ウォール・シイナがある。
今日中には帰っているであろうその家を思うと、なんだか不思議な気持ちがした。
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空港でお土産をいくつか買い、来たときのように2人そろって飛行機へ乗り込む。
「着くの昼過ぎか。」
「そうだね、そしたらお昼食べよっか」
上空からの眺めは本当に短い時間で、あっという間に到着してしまった。
彼の車へと向かう途中、なつかしいような帰ってきたくなかったような、複雑なものが鼻をついた。
「なに食う?」
車で少し走り、大通り沿いにあるイタリアンのお店に入った。
パスタを分け合いながら談笑し、食べ終わる頃にキョウちゃんが穏やかに言う。
「気持ち、変わってない?」
未来を切り開く心の準備は万端で、あとは行動に移すのみだ。
「うん。」
見つめ合い、彼は現状を噛みしめるようにうなずいた。