テキストサイズ

メランコリック・ウォール

第42章 異国の地へ





それから数週間、とくに進展もないまま毎日が過ぎていった。


オサムは、お目当ての桜子ちゃんとも会えなくなって、よりいっそう老け込んだように見える。

毎日自室に引きこもり、たまに出てきたと思えばトイレか食事だ。


私は相変わらず1~2週間に一度、キョウちゃんの部屋で食事を作る。

毎日は来れないので、数日分を作り置きしている。



「昨日は土曜日だったのにお疲れさま。平気?」

「うん。久しぶりの休日出勤でだるかったけど、大丈夫(笑)」

2月に入った日曜日の昼、待ち合わせて彼のアパートへ向かう。


「親方は…どう?」

「んー。べつに仕事はいつもどおりだな。俺に対しても何も変わんない」

「そっかぁ…」


すっかり使い慣れた彼のアパートの台所で、また数日分の食事を作る。


最近では、タッパーに1食分をお弁当のようにして詰めるのがマイブームだ。


「これならレンジで温めてそのまま1食とれるから、便利かなって」

「うん、めちゃくちゃ便利。いつもありがとな。」


「ううん。楽しいよ。」

「あっ、そうだ。そろそろ金ないだろ?」


「まだあるよぉ」

「入れとく」

「気使わなくていいのに~…!」


今では自分の財布とは別で小さな財布を持つようになった。


キョウちゃんはいつもそこへ現金を入れるので、少しずつ貯金をしているような錯覚にも陥る。


「今日は一緒に食っていけるの?」

「うん!唐揚げにしよっかなって。」

「いいね。」


唐揚げを揚げる間、キョウちゃんはテレビを見たり浴室の掃除をしていた。





食事が終わると、彼は一緒に風呂に入ろうと誘った。

冷えた指先がジンジンと痺れる。


「ふああ…気持ちいい…」


私が言うと、キョウちゃんは後ろから包み込みながら私をさらにあたためた。


「あのさ…」

「うん?」


「親方に昨日言われたんだけど。…独立したらどうかって。」

「…独立??」


ストーリーメニュー

TOPTOPへ