メランコリック・ウォール
第6章 長電話
「もうじき現場始まるからよう、挨拶に来たんだ」
「もうだいぶ建ちましたね」
「おう。もう入れるくらいだ。頼むわな」
うちは内装や外装の専門で、ほかにも建物が建ったあとに業務に取り掛かる業者が集まっている。
「知らない顔もいるだろうし、いっちょ景気付けに飲み会でもやるか」
大工の棟梁が言い、ゆりちゃんはウキウキした様子で「私、予約入れますよ♪月の宮旅館でいいですか?」
とパソコンを覗きながら言う。
「おう、頼むわ。それじゃ、今日はもう行くからよう」
棟梁が事務所を後にすると、残った人たちで談笑が始まる。
付き合いを円滑にするのも私の仕事でもあるので、私は皆に森山さんを紹介した。
「こちら森山さんです」
「あぁ、親方ンとこの新しい現場監督か!」
「若いな~いくつだ?」
無事おじさんたちと打ち解けたのを見届け、私はデスクに戻った。
「アキちゃ~ん♪久しぶり。」
声をかけてきたのは足場屋の曽根さんだ。
「ご無沙汰してます。またよろしくお願いしますね」
足場がないと外壁塗装が出来ないので、現場では曽根さんたちとうちとがよく一緒になる。
「アキちゃん、いつになったらデートしてくれんだよ~?」
いつもの調子で、冗談っぽく曽根さんが笑う。
「ふふっ。曽根さん、相変わらず優しいのね」
「なんだよう?俺ァ、まじだぜ~?」
それを聞いていたオサムが、ここぞとばかりに出しゃばる。
「曽根ちゃん、だめだめ、コイツもう歳だから。曽根ちゃんのこと満足させらんないって(笑)」
笑いのつもりで言ったのだろうか、私には1ミリも笑えない。
”歳だから”という言葉と、前に見つけてしまったAVとが交互に浮かぶ。
森山さんが私を見ている…。
恥ずかしくて死にそうだ。
女として見てくれなんて言わないから、蔑むのはやめてよ……。