メランコリック・ウォール
第6章 長電話
オサムがいなくなると、曽根さんは
「ひでェ男だなぁおい。…俺はいつでもウェルカムだからよ。アキちゃん、旦那が嫌になったら俺んとこ来なよ。それじゃ」
と言って去っていった。
旦那が嫌、なんて、今に始まったことでは無い。
外に出て愛想笑いで皆を見送り、最後に残った森山さんが私を見る。
…もう若くないし、男の1人も満足させられないと蔑まれた。
それだけでも腹が立つが、森山さんに見られるなんて。
恥ずかしくて情けなくて涙が出そうになる。
「アキさん」
「…ん?」
「俺、電話待ってんだけど(笑)」
前に、気分転換にどこか行きたければ電話して…と言われた。もちろん忘れていたわけではない。
何度も、”本当に電話しちゃおうか…”と思った日があった。
「あ、あはは…冗談かと思ってて…」
「いや、いいんだけどさ。気が向いたらで。今夜あたり気が向くといいんだけどね」
森山さんはいたずらに微笑むと、片手を上げて挨拶し帰っていった。
事務所に戻ると、ゆりちゃんが旅館への予約を完了させていた。
「さっき棟梁が持ってきたリストだと、37名で。かなり多いですね(笑)」
「えぇ、そんなにいるんだ。私たちほんとに行って良いのかな…」
棟梁は自身の奥さんも呼ぶからと、私たちも誘ってくれたのだった。
「でもこの際、楽しんじゃいます!美味しいお食事出るだろうし~♪」
「ふふ、そうだね。温泉久しぶりだなぁ」
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その夜、私はスマホを片手にジッとしていた。
森山さんがせっかく声をかけてくれたけど…なんだかすごく緊張してしまう。
電話をかけたところで、うまく話題が見つかるかどうかも分からない。
「……」
消えた画面を見つめ、また画面をつけ、…それを何度か繰り返したあとで、私は思い切って”森山キョウヘイ”という画面で発信ボタンを押した。
2~3回のコールが鳴り、「はい」と低い声が聞こえる。
「も、もしもし…」